すっかり秋らしくなった。今回は、『[完全版]超ファイルの技術』を紹介したい。本書は、移植外科医が提唱する整理術になる。医師を志し医大に入学し、移植外科医になり、そして現在まで続けている整理術とはどのようなものか。誰もが知っているいくつかの手法を応用したものである。汎用性も高いのですぐに実行可能だ。
著者は刑部恒男(以下、刑部医師)。簡単にプロフィールを紹介する。北里大学医学部卒。相模台病院外科医長、江東区あそか病院外科医長を経て、臓器移植研究を目的に米国ピッツバーグ大学病院に留学。臓器移植外科を専門とし北里大学医学部外科講師を勤めた。富山県高岡市に「トモエクリニック」を開設し院長。医学博士。
「山根式袋ファイル」とは
――「山根式」袋ファイルは、1985年に山根一眞著「スーパー書斎の仕事術』(アスペクトブックス)で紹介された。「山根式」袋ファイルは、事務用封筒(角形2号)の上端を1.5センチ幅切り落とした袋ファイルだ。この袋ファイルの中に、何でも入れてA4規格に統一する。百科事典のように「50音順」を採用している。
「アイウエオ順に並べるだけですから、図書館式のように『分類不能ファイル』や『迷子ファイル』で苦労することがありません。検索するときは、辞書を引く要領です。感激した私はさっそく50音順に変更しました。おかげで分類の煩わしさから解放され、山根氏のアイデアにはとても感謝しています。」(刑部医師)
「50音順に並べるだけですから、分類の必要がありません。辞書を引くように、速やかな検索が可能で、パソコン検索などの労力を必要としないので、簡単に始められ長続きします。しかし、50音順だけで並べると関連するファイルがバラバラになり、関連ファイルをまとめておけないのです。」(同)
――ファイルをまとめておけないとはどのようなことか。
「たとえば私の仕事である医療では学術資料が体系化されているため、50音順にすると関連ファイルが分散してしまうのです。50音順に単純に並べているので、関連するファイルを『系統別』のようにすぐ隣に置けないのです。関連したファイルを探すときは、50音順に探し出して再び50音順に戻さなければなりません。」(刑部医師)
「また、検索手段をファイル名の記憶に頼るため、あくまで個人レベルの整理法になります。多くの人が共有して資料を扱う場合には適しません。」(同)
「野口式『超』整理法」とは
――1993年、野口悠紀雄氏は著書『「超」整理法』(中公新書)で、「押出し式ファイリング」を発表し、大ブームを巻き起こした。野口氏は、分類作業には問題点が多いことから、単純に時間順で並べていく、簡単な整理法を発案したのである。
「これは、『山根式』袋ファイルと同じ事務用封筒(角形2号)を使いますが、50音順ではなく時間順で並べます。ファイルは本棚の左端から順に並べていきます。新しいファイルは、本棚の左端に入れ、取り出して使ったファイルは、再び左端に戻す。これを繰り返すと、使わないファイルは右に押し出されていくのです。」(刑部医師)
「この『押出し式ファイリング』はシンプルで簡単、最近使ったファイルは左にあり、昔に使ったファイルは右端にあるという、時間軸で検索が可能になっています。机の上ではいつも使うファイルを左端手前に入れるとファイルへのアクセスが、サッとできます。机の上のファイル整理はこの方法がベストです。」(同)
――「野口式『超』整理法」の特徴についてまとめておきたい。
「左端から単純に時間順に並べていくだけですから、分類の必要がありません。簡単に始めることができ、しかも長続きします。さらに、処分の判断が可能です。右端に追いやられた不要なファイルはその場で処分できます。分類作業から解放される便利な方法ですが、問題点も抱えています。」(刑部医師)
「最大の欠点は、資料が増えるにしたがって検索時間がかかることす。ファイルの時期はある程度までは覚えていられますが、多くなるとむずかしくなります。やはりこれも、個人レベルの整理法です。」(同)
「刑部式整理法」とはなにか
――50音順で整理する「山根式」、時間順で整理する「野口式」。この2つの袋ファイリングの考え方をドッキングさせて、それぞれのメリットを活かしながら、さらにインデックスをつけることで“系統別分類”も可能にしたのが「刑部式整理法」である。机の上では時間順に並べ、保管するときは50音順に並べることが可能だ。
拙著『007に学ぶ仕事術』で触れているが、ジェームズ・ボンドは書類が苦手である。「007 ダイ・アナザー・デイ」に登場した、アストンマーチン(V12ヴァンキッシュ)は、車が透明になる。車体全体に超小型カメラが取り付けてあり、正反対側のカメラ画像をポリマー加工の車体表面に投影することで透明に見える仕組みとされている。
Qが2時間ほどマニュアルに目を通せと渡すが、ボンドは、目標自動追尾ショットガンの前にマニュアルを放り投げる。マニュアルはショットガンにより粉々になり、「2秒でOKだった」というシーンが印象的だ。ボンドも「刑部式整理法」を会得すれば、破壊せずに整理する方法が学べるだろう。次回作で取上げていただきたい。
皆さまは「患者」の意味をご存知だろうか。患者の「患」の字は、「口」に串が刺さって心が閉ざされている状態である。医者はその串を抜いてあげることが仕事だ。患者さんの閉ざした心の串を抜いてあげられように、心に寄り添った手当が医師にとってもっとも大切なことである。最後に刑部医師の言葉を紹介していおきたい。
参考書籍
『[完全版]超ファイルの技術』(すばる舎)
尾藤克之
コラムニスト
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