同僚を誘った「嫌がらせ退職」をすると?

転職等の理由で会社を退職することは、(法定の期間を経過すれば)原則として自由です。
法定の期間というのは、月給制であれば「月の前半に申し出れば月末まで。月の後半に申し出れば翌月末まで」で、日給制等の場合は14日前に告知が必要です。

以前、勤めていた会社を退職して新会社を設立するために同僚数人を誘って退職したため会社に大打撃を与えたとして、判決で1500万円の損害賠償を命じられた退職者がいました。

退職も新会社設立も基本的には自由なのですが、職務時間中に勧誘行為を行ったことが労働契約上の「誠実義務違反」となり、会社に大きな打撃を与えたことが民法上の不法行為と認定されたのです。

大企業で平社員が2、3人連れ立って退職するのはまったく問題ないでしょうが、中小企業や従業員数の少ない職場で重用なポジションにある従業員を誘って退職すると、状況によっては多額な賠償請求をされる怖れがあります。

かつて、とある中小同族企業の社長から以下のような相談を受けました。
「今まで全幅の信頼を置いていた部長が突然辞めるというのです。彼がいないとわが社の業務は止まってしまいます。何とか説得してくれませんか?」
従業員には退職の自由があるので”法的に止めることはできない”ことを納得してもらい、決して報復人事はしないという言質を取って私は当該部長と話をすることにしました。

当初は頑なに口を閉ざしていた部長ですが、次第に打ち解けてきてポツリポツリと話し始めました。

「実は、今年入社した新入社員のAくんから私と同年代の会社員の基本給一覧表を見せられて、「部長は不当に搾取されてますよ。それに社長の役員報酬と桁違いでしょう。他の会社に行けば、はるかに高い給料がもらえるはずです。社員を搾取するような社長の下でこれ以上働くのはバカらしいと思いませんか?」と言われました」
「なるほど〜会社のために懸命に尽力してきた部長にとって給料が安いのは辛いですよね」
「それだけじゃないんです。Aくんから聞くと、私が高熱を出して休んだ時、社長が私のことをよく休むヤツと責めていたそうなのです。一生懸命社長には尽くしてきたのに…」

実は新入社員のAくんは、(事前に社長に聞いていたところ)大変な問題社員で、会社の備品を勝手に持ち帰ったり、重要書類を廃棄したりと、社長に反抗的な態度を取り続けていた人物でした。
社長に対する嫌がらせのつもりで、自身と共に部長も辞めさせようと画策していたのでしょう。

私は部長に概略以下のようなことを言いました。
「まず、給料に関しては私に責任があります。中小企業は業績の浮沈が大きいため基本給は安くしてボーナスで報いるよう社長にアドバイスをしていたのです。ボーナスも安かったのですか?」
「いえ、大企業に勤めている元同級生よりたくさんもらっていました」
「次に、役員報酬との違いですが、ご存知のように税金対策で法人の所得と役員の所得を調整するのが一般です。そして、これまた私のアドバイスなのですが、会社が倒産したら経営者は一文無しになるけど従業員には失業保険もあり同業他社が雇ってもくれます。責任の重さを考えれば、たくさん取ることを遠慮してはいけないと、常々言っていたのです」

「ちなみに、Aさんが言うように、高待遇で受け入れてくれる転職先は確保しているのですか?」
と訊ねると、
「いえ、これから探すつもりです」
という何とも楽観的過ぎる答えが返ってきて、私の方が驚きました。

結局、部長は翻意して残ることになりました。
私は、退職したAくんに対して法的措置をとれるということを社長に説明しましたが、
「退職後、彼が弊社や私の悪口を触れ回るようであればお願いします。それまでは睨みを利かせつつ、”去るものは追わず”というとにします」
とのことでした。
その後、Aくんが企業秘密を口外していたことを知った社長はAくんを提訴しました。

「立つ鳥跡を濁さず」というように、後足で砂をかけるような退職をするといつか必ず報いを受けます。

また、よく「仕事は忙しい人に頼め」と言われます。
忙しい人は仕事が速くてデキる人だから確実だからでしょう。
しかし、会社には獅子身中の虫がたくさんいます。
「その人が抜けたら会社が潰れる」というようなキーパーソンはけっしてつくるべきではありません。
その人が突然死亡することだってあるのですから。

経営者のみなさんは、先々のことも考えて、業務を振り分けてリスクの分散を図りましょう。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。