ドイツの政治家は2度、勝負する

オーストリアの国民議会選挙(下院)が15日、実施されたが、ドイツ16州の中で面積で2番目、人口で4番目に大きいニーダーザクセン州でも同日、州議会選挙(定数137)が行われ、党首に就任以来、4戦4敗を喫してきたシュルツ党首の「社会民主党」(SPD)がメルケル首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)を破り、第1党となった。ドイツのメディアでは「男は2度、勝負する」といった見出しでシュルツ党首の復活ぶりを報じているほどだ。

▲連邦議会選で歴史的敗北を喫したSPDのシュルツ党首(ドイツ公営放送の選挙中継から、2017年9月24日)

2017年はドイツにとってもスーパー選挙の年だった。欧州議会議長を5年間務めた後、ベルリンの中央政界に戻り、党大会で100%の党員の信頼と期待を背負って社民党党首に就任した時、マルティン・シュルツ氏(61)は文字通り、停滞する社民党の救世主だった。

そのシュルツ党首の社民党の“その後”はあまりにも惨めだった。3つの州選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の9月24日の連邦議会選では社民党歴史上、最悪の得票率(20・5%)に終わったのだ。

元気が取り柄のシュルツ党首もさすがに総選挙敗北の日、「結果は厳しく、辛いものだった」と表明する一方、「野党の党首として今後もやっていく」というのが精いっぱいだった。その党首が総選挙3週間後、生き返った。そして「党再生の時を迎えた」と宣言し、党の刷新を表明したのだ。

先ず、ニーダーザクセン州の選挙結果を簡単に説明する。

同州(シュテファン・ヴァイル州首相=SPD))では社民党と「同盟90/緑の党」が連立政権を運営してきたが、「緑の党」議員がCDUに代わったことで、議会の過半数を失い、来年1月予定の選挙が前倒しで実施されることになった。
世論調査ではCDUがリードし、社民党は第2党と予測されたが、結果はSPDが得票率約36・9%を獲得し、州の同党史上、1998年以来最高の票を集め、CDU(約33・6%)を抜いて第1党となった。

選挙後、「同盟90/緑の党」(約8・7%)との再連立案が既に聞かれるが、2党では議会(定数137議席)の過半数(69議席)に届かないことから、自由民主党(FDP、約7・5%)との3連立案が出ているが、FDPが目下、難色を示しているため、同州の新政権発足が遅れる可能性が出てきた。

ここで問題としたい点は、社民党が同州の勝利で自信を取り戻したことだ。特に、党首就任、勝利の女神が離れ、意気消沈ぎみだったシュルツ党首が俄然、生き返ったのだ。スポーツ界では「勝利こそ元気の素」といわれるが、政治家も同じだ。州レベルとはいえ、勝利すれば、やる気も出てくるわけだ。

シュルツ党首は15日、「わが党は党の綱領、人事、組織的に改革を実施し、党再生プロセスを開始しなければならない」と表明し、党内の対話強化をアピール、12月初めの党大会を目指し、党の刷新案(ロード・マップ)をまとめていく意向を明らかにした。こんな威勢のいい発言がシュルツ党首の口から飛び出したのは久しぶりのこと。
ちなみに、同州の社民党は連邦議会選では得票率27・4%だったが、10月15日の州選挙では約36・9%とほぼ10%得票率を伸ばした。シュルツ党首ではなくても大きなサプライズだ。

独週刊誌シュピーゲル(電子版)でヤコブ・オウグシュタイン記者は、「社民党はベルリンの敗北(連邦議会選)から何を教訓とし、ハノーバーの勝利(ニーダーザクセン州議会選)から何を学ぶかが課題だ」と述べている。

興味深い点は、連邦議会選でメルケル首相の与党「キリスト教民主、社会同盟」(CDU・CSU)は得票率約33・0%で、前回(2013年)比で約8・5%得票率を失う党歴代2番目に悪い結果だったが、第1党維持という選挙目標を達成したことから「勝利」と受け取った一方、SPDは党史上最悪の得票率だったこともあって「敗北」以外の他の解釈はなかったことだ。その結果、SPDはここにきて党再生に乗り出す動きを見せる一方、CDUは党改革の切っ掛けを失うかもしれなくなった。

欧州の社会党(社会民主党)の凋落ぶりは目を覆うばかりだ。2000年時、欧州連合(EU)の加盟国は15カ国だったが、そのうち10カ国は社民党単独、ないしは社民党主導政権だった。加盟国28カ国の現在、その数は2桁を切って久しい。“欧州の右傾化”と呼ばれる現象だ。

その中で、シュルツ党首のSPDが再生すれば、新しい政治の夜明けを告げることになるかもしれない。死んだと思われた男が立ち上がってきたのだ。ドイツの男(シュルツ党首)は2度、勝負する。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。