希望の党の敗因と立憲民主党の勝因を分析する

藤原 かずえ

2017年の衆議院選挙は、自由民主党と公明党の与党が全体の2/3の議席を超え、希望の党が議席減、立憲民主党が大躍進を遂げるという結果になりました。この記事では、希望の党・立憲民主党・自由民主党の3党に着目し、勝敗の要因を定性的に分析したいと思います。

政治的強者と政治的弱者

希望の党
今回の選挙は、ワイドショーが主導する満員御礼の「小池劇場」で始まりました。希望の党・小池百合子代表の【ポピュリズム populism】が頂点に達し、朝から晩までテレビの報道番組やワイドショーは政権交代を視野に入れた過熱報道を開始しました。完全に政治的強者となった小池代表は事実上の解党を決めた民進党議員の受け入れにあたって「排除宣言」をしました。この排除宣言は、機能集団である政党にとって極めて合理的な意思決定です。しかしながら、小池代表の【ポピュリズム】のターゲットとなっていた情報弱者にとってみれば、排除宣言をするような政治的強者は大衆の敵であり、ここに小池代表の決定的な誤算があったと言えます。【ポピュリズム】を忘れた【ポピュリスト populist】は当然のことながら大衆の敵であると言えます。独裁的な権力を使って、都民ファーストの会の結党に貢献した音喜多都議と上田都議を政治的に粛清していたことや、若狭勝氏と細野豪志氏をリセットしたことも【対人魅力】を大きく減少する要因となりました。

立憲民主党
小池代表の排除宣言のターゲットとなった立憲民主党は、大衆から政治的弱者と認識され、政治的強者である希望の党と対峙する大衆の味方を装いました。立憲民主党の枝野幸男代表は【同情論証 appeal to pity】に基づくこの棚ボタの【ポピュリズム】に徹し、「数合わせや権力ゲームとは距離を置く」という実効性のない誠実さをアピールして言説を肯定させる【誠実さに訴える論証 appeal to sincerity】と「エダノン」と呼ばせる親近感をアピール言説を肯定させる【庶民性に訴える論証 appeal to common folk】という誤謬を利用した心理操作で情報弱者の支持を得ました。まさにバットを構えただけで一度も振ることなく、相手投手の四死球の連発から得点を重ねただけと言えます。

自由民主党
当初は安倍一強と指摘されたように実際に完璧な政治的強者の自民党ですが、希望の党が大衆から横暴な政治的強者と認識されたために、政治的強者であることをちゃっかり隠して選挙を戦ったと言えます。

大衆に対する上から目線と下から目線

希望の党
小池代表は、ゲームを有利に進めるため、自らの意思決定を先送りして大衆の情勢を見極めるいつもの作戦に出ました。特に小池代表は衆院選への立候補の意思を明言しなかったことから、「国民ファースト」と言いながらその行動原理は常に「自分ファースト」であったことが情報弱者からも見透かされたと言えます。大衆に対するコミュニケーションの努力に乏しく、一方的な政策の提示によって党首への追従を求める政治スタイルは、大衆から上から目線と認識された可能性が高いと考えます。

立憲民主党
枝野代表が強調し続けた「上からの政治を草の根の政治に変えていく」という言うだけなら誰でも言えるスローガンは【ルサンチマン ressentiment】を持つ大衆を扇動するポピュリズムそのものです。枝野代表が口にする「立憲民主党はあなたが創った政党だ」「立憲民主党と一緒に戦ってほしい」「日本の民主主義を進める」「私にはあなたの力が必要だ」「皆さんは民主主義の主役」といった言説は、立憲民主党と対峙している自民党も認識している単なる民主主義の精神を扇情的に言葉に出しているだけですが、民主主義の原則も知らない情報弱者はこの手の言葉に酔ってしまい、あたかも立憲民主党が特別な党であるかのように認識してしまいます。すなわち自分が「民主主義の主役」であることを知らなかった中二病の情報弱者は、【返報性の原理 reciprocation】に従って、枝野代表にお返しの感情を持つようになり、結果的に強く支持するようになります。まさに政治家の他愛もない【プロパガンダ propaganda】の餌食となったわけです。

自由民主党
自民党は、今回の選挙でもいつもながらの下から目線で、組織を通して大衆とコミュニケーションしたと言えます。実質的には、口だけの立憲民主党よりはよっぽどきめ細かくサイレント・マジョリティの民意を引き上げていると考えられます。このそつのなさが自民党の強さとも言えます。

イメージだけの政策とお花畑の政策

希望の党
大衆に受けそうなイメージ・ワードで構成されるハチャメチャな政策を堂々と発表してしまった希望の党は、ネット言論を中心にコテンパンに論破され、どんどん無口になっていったと言えます。そもそも最初は、一院制を実現するための党であったはずなのに、一院制は入党の要件からも外されてしまいました。ユリノミクス「12のゼロ」など、情報弱者にも見破られてしまうあまりにもシュールすぎる政策が多すぎたと言えます(笑)

立憲民主党
立憲民主党の希望の党との大きな違いは、立憲民主党にはお花畑政策という確固たる政策があるということです。お花畑政策は、共産党や社民党の政策と大きな違いはなく、議論になれば瞬殺されてしまうような内容といえます。立憲民主党の賢いところは、ボロが出るので政策の詳細な内容には触れることなく、「政策がある」ことだけを強調した点です。政策・理念を捨てて希望の党へ移った民進党議員が批判される中、立憲民主党は「政策・理念の筋を通す」と主張するだけで人気を得ることができたわけです。お花畑政策は、詳しい議論さえしなければ(笑)、戦後民主主義の呪縛から解放されることがない中高年層からの一定の支持を期待できる政策と言えます。

自由民主党
自民党は、サイレントマジョリティが評価する外交政策をひたすら強調したと言えます。なお、増税を主張しても大きな影響がなかったことは特筆すべきであると言えます。

他党批判

希望の党
これまでに大衆に不人気な敵を作ってきた小池代表ですが、今回は不人気な敵がいなかったと言えます。仕方なく森友・加計問題を問題視して安倍晋三首相の【人格攻撃 ad hominem】をしましたが、既に森友・加計問題に疲弊していた国民の支持を受けられなかったと同時に、小池代表自身の人格が国民に問われたと言えます。

立憲民主党
立憲民主党は、森友・加計問題で政府を全体的に批判することがあっても、個人に対するヒステリックな【人格攻撃】については回避したと言えます。これは【人格攻撃】をするたびにブーメランとして返ってきた民進党時代の経験を踏まえたものと推察します。

自由民主党
自民党は、大衆がウンザリしている小池劇場を批判しました。「希望の党と立憲民主党は民進党に過ぎない」という指摘は、民進党に懲り懲りしている多くの国民を納得させたものと考えます。

エピローグ マスメディア支配の構造

どうであれ、今回も野党の政策が十分に示された選挙ではなかったと考えます。このような選挙では、この記事で示したような要因によって吹く「風」だけが頼りになり、「風」を吹かせる原動力であるマスメディア報道がその勝敗に大きく関わることになると言えます。今回の選挙の場合は、希望の党が明確に憲法改正に積極的な姿勢を示した頃から、マスメディアの小池バッシングが始まり、憲法改正に消極的な姿勢を示す立憲民主党の姿勢を美化し、その高まるプレゼンスを強調する報道が急激に増加したと言えます。結果として立憲民主党は大躍進することになりました。

一方で、TBSテレビ「NEWS23」と「サンデーモーニング」はフェイクニュースを使って、自分達の論調とは異なる意見が多いネット言論を貶めて無力化するような特集報道を行いました。そしてネットでその報道の矛盾が追及されると、アリバイを作るように報道を訂正して、何もなかったかのように装いました。また、都議選最終日における秋葉原での組織的選挙妨害を肯定した「モーニングショー」等のワイドショー報道によって、各所で組織的な選挙妨害が普通に行われるようになりました。救いは演説の聴衆がこのような反社会的行動を許容しない雰囲気が形成されたことです。

報道を逸脱したマスメディアの選挙への関与は日本の民主主義を揺るがす大問題であり、多くの国民がこのことを認識し、各個人がマスメディアの暴走を監視していくことが重要であると考える次第です。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。