【映画評】グッド・タイム

ニューヨークの最下層で生きる若者コニーは、知的障害の弟ニックと銀行強盗を企てる。だが、強盗は失敗に終わり、途中でニックが警察に捕まってしまう。ニックは刑務所の中でいじめられた末に暴れて大怪我を負い、病院に送られることに。逃げ延びたコニーは、ニックを救おうと奔走するが、保釈金が用意できず、病院に忍び込んで何とか弟を取り戻そうとする。だが思いがけない事態に遭遇し、コニーは次第に追い詰められていく…。

投獄された弟を取り戻そうともがく兄の一夜の出来事を描くクライム・ムービー「グッド・タイム」。ドキュメンタリーを思わせるザラザラした質感の映像で描かれるのは、最愛の弟ニックを取り戻そうとする兄コニーの、あまりにも無計画な暴走ぶりだ。不運と滑稽さも加わって、コニーの運命はトンデモない方向へと舵を切る。彼の行き当たりばったりの行動は、やればやるほど事態を悪くしていて、このヤバい状況、分っているのか?!とツッコミたくなるが、コニーに迷いがないのは、ニックへの深すぎる愛情ゆえだ。兄弟の背景はほとんど説明されないが、劣悪な環境で生きてきたであろう彼らには、互いの存在だけが心の支えなのである。

前半、綱渡りにも似たコニーの衝動的な行動は、意外にも成功率が高いが、病院から弟を連れ出すところから大きすぎる誤算が生じ、そこからは“何でこーなるの?!”と言いたくなる展開に。色々な意味で目が離せなくなるが、共感とか応援などではなく、あっけにとられて見守るというのが正直なところだった。それでも、必死すぎるコニーの姿から、社会の底辺であえぐ若者の閉塞感や、都市にひそむ狂気がゆっくりと立ち上ってくる。コニーを怪演に近い熱演で演じるロバート・パティンソンは、ただならぬ迫力で素晴らしいの一言だ。地元ニューヨークのリアルを切り取った物語、クローズアップを多用した映像など、随所でインディペンデント映画の父、ジョン・カサヴェテスを思わせる。それでいて、今まで見たこともないような息苦しいほどのパワーを発散する本作。「神様なんかくそくらえ」で注目されたサフディ兄弟監督の名前は、映画ファンならぜひ覚えておきたい。
【70点】
(原題「Good Time」)
(アメリカ/ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ監督/ロバート・パティンソン、ベニー・サフディ、ジェニファー・ジェイソン・リー、他)
(疾走感度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月9日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。