オーストリアで18日午前11時(現地時間)、ウィ―ンの大統領府で中道右派政党「国民党」と極右政党「自由党」からなる新連立政権の宣誓式が行われ、クルツ新政権が正式に発足した。11年前、両党の連立政権が発足した時、自由党の政権参加に反対するデモ集会が行われ、新政権の閣僚たちは宣誓式が行われる大統領府まで地下道を通って行かなければならなかったが、今回も抗議集会こそ行われたが、規模的には小さく、大きな衝突はなかった(ウィーン市警察によると、デモ参加総数約5000人)。
欧州諸国では自由党の連立参加に批判と懸念の声があることは事実だ。欧州連合(EU)は反EU路線を標榜してきた自由党の政権入りに強い警戒心をもっている。
31歳で新政権を組閣したクルツ首相は8週間余りの自由党との連立交渉で極右党の暴走を回避するために2、3の対策を取っている。クルツ新首相が実施した“極右党暴走対策”を紹介する。
まず、閣僚リストを一瞥すると驚く。閣僚ポスト数こそ国民党は8閣僚で自由党より2つ多いが、財務省、法務省以外は重要なポストはない。一方、自由党は外務省、内務省、国防省、そして社会省と4つの主要閣僚ポストを得ている。新外相のカリン・クナイスル女史(52)は外部から抜擢されたが、自由党が推薦した人物だ。
国内に極右政党「国民戦線」を抱えるフランスでは、クルツ新政権で自由党が内務省と国防省の両方を握ったことに強い警戒心を吐露している。当然の懸念だろう。クルツ新首相はその懸念を深刻に受け取り、手を打っている。クルツ新政権にはヘルベルト・キックル内相(49)のもと国民党からカロリーネ・エドッシュタドラー女史(36)を次官として配置している。
自由党のブレインと呼ばれ、イェルク・ハイダー時代(1986~2000年)、ハイダー党首の演説を書き、ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(38)が就任した後も自由党の政治路線から選挙戦まで組織化し、主導してきた人物だ。オーストリア・メディアによると、新内相にはネオナチ系人物との接触があるという。
そこでクルツ氏は内務省に国民党の次官を配置し、キックル内相の独走を監視する狙いがあるわけだ。これが極右党暴走対策のナンバー1だ。
連立交渉でクルツ氏が自由党側に強く要求した点はEU離脱を要求しないこと、カナダEU包括的経済貿易協定(CETA)に反対しないことだ。ブリュッセルの最大の懸念は自由党の反EU路線だからだ。その代わり、クルツ氏は愛煙家で知られているシュトラーヒェ副首相の要求を受け入れ、既に前政権で決定していた禁煙法の施行を断念している。これがナンバー2の暴走阻止対策だ。
それだけではない。クルツ氏はEU問題は連邦官房省の管轄に置き、クルツ氏の最側近、ゲルノート・ブリュ―メル官房長官(36)がEU問題を取り扱う。自由党が反EU路線に走るのを避けるためだ。新外相は外部からだが、EUの懸念を払拭するための予防策だ。対策ナンバー3だ。
なお、国民党と自由党の連立交渉が始まると、バン・デア・ベレン大統領は、「一つの政党が内務省と法務省の2省を握らないこと、過去にネオナチ的発言や外国人排斥などを発言した政治家は閣僚に就任させないことという条件を提示した。クルツ氏は大統領の願いを受け入れ、内務省は自由党に与えたが、法務省は国民党が握っている(ジョセフ・モーザー氏、62)。対策ナンバー4だ。
クルツ政権で内相と国防相が自由党の手にあることに不安をもつ声はあるが、キックル内相には先述したように国民党からの次官をつけている。オーストリアは中立国家ということもあって、マリオ・クナゼク国防相(41)にはあまり大きな権限はない。主要課題は警察と連携して殺到する難民のコントロールと、国境線監視に限られている。軍部の不穏な動きといったことは現時点では考えられない。その意味で、自由党が内相と国防相の2ポストを占めたことに対する不安は杞憂だ。ただし、治安関連閣僚を極右政党が握ったという“事実”は新政権にとっていいイメージとはならない。
31歳のクルツ新首相は極右政党自由党と連立を組んだが、自由党の暴走、脱線を防ぐために対策をそれなりに打ってきているわけだ。若い首相だが、抜け目がない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。