203X年小泉政権の予行演習:『人生100年時代の国家戦略』

新田 哲史


先の衆院選で安倍政権が公約に掲げた「社会保障の全世代型への転換」に影響を与えた「こども保険」の構想はいかにして作られたのか?提案した小泉進次郎氏ら若手議員たちのオブザーバーを務めた著者が、500日間の政策形成のプロセスを生々しく振り返っているが、そこから浮かび上がってくるのは、小泉氏らの「政策イノベーション」への固執ぶりだ。

「こども保険」を巡っては、池田信夫がアゴラで「保険とはリスクをヘッジするもので、子供を産むのはリスクではない」と苦言したように批判もつきまとう。構想発表当時、私自身も著者から話を聞いた際には「財政再建から逃げているだけではないか」と思ったものだが、その是非は別にして、子育てのコストを社会保険形式で手当てする発想自体は新しく、世界的にも異例なのは確かだった。人類未踏の超高齢化時代、欧米のキャッチアップから踏み出そうとする姿勢と意欲は評価できる。

政治的に消費税率アップ・財政再建が困難の現状にあって、迫り来る超高齢化、IT化、グローバル化に日本社会をなんとか持続可能なものとしなければという彼らの危機感は、「ネット世代」ならではのリアルさを反映してのことだろう。官僚に頼らずにオリジナリティーのある政策で勝負する姿勢につながった一因かもしれない。

意外だったのは、本書によると、自民党の長い歴史にあって、小泉小委員会は、政務調査会において初めて若手議員だけで構成する委員会だったそうだ。もちろん、若手議員でありながらすでに「将来の総理」が確実視されている小泉氏のプレゼンスによる産物でもあろうが、初めての「インキュベーション」機能で500日間、議員たちが自分たちの頭と手を動かして上の世代の議員たちとも渡り合いながら、「こども保険」などの政策提案を結実した成果は長い目でみて小さくないだろう。

本書は、小泉氏の裏舞台でのリアルな姿が描かれていることにも注目したい。若手議員たちの喧々諤々の議論をファシリテーションし、いかにまとめあげているか、その手腕の一端を垣間見られる。安倍晋三氏が初めて首相になったのが52歳。1981年生まれの小泉氏は2033年に同じ歳になる。こども保険の発案者となった村井英樹氏(1980年生)、アゴラでもおなじみで技術革新に明るい小林史明氏(1983年生)らも政治家として年齢的には脂が乗り始める時期だ。別の本で紹介されている農政改革で小泉氏とタッグを組んだ福田達夫氏(福田康夫元首相の長男、1967年生)あたりが官房長官となり、村井、小林氏らが政府与党の要職として小泉首相を支える構図になるのか、永田町の未来図としての一見の価値はある。

蛇足ながら、政権スキャンダルや情報公開を声高に叫ぶばかりの野党の同世代の議員たちに比べても、政策形成の経験値は、プロ野球で言えば20ゲーム以上の差が着いたのではないだろうか。そのことに危機感を抱く野党の若手はどれくらいいるか心許ないのではないか。自民党や小泉氏を過剰に持ち上げるつもりはないが、遠くない将来、「安倍一強」が終わったあとも野党にとっては手強いばかりの人材が自民党には揃っているように見えてしまう。

藤沢 烈
東洋経済新報社
2017-12-08