2017年、トランプが「歴史に残る偉大な大統領」になった年(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

2018年もこの男を中心に世界が動く(WhiteHouse/flickr:編集部)

2017年12月米国で歴史的な規模の税制改革法案が連邦議会を通過し、トランプ大統領は同法案に署名を実施した。トランプ政権は初年度にも関わらず米国の法人税を35%から21%に引き下げる快挙を成し遂げた。法人税を減税したパーセントの単純な比較ならレーガン政権の税率引き下げ幅よりも大きい。

トランプ大統領は税制改革法案に関しては、懸案となってきた国境税調整を大統領を含めたビッグ6による決定という形で自らのリーダーシップで除外し、分裂している共和党内部調整のために共和党指導部らと緊密に取り合うなど、同法案の実現に向けたイニシアティブを発揮してきた。税制改革の実現によって米国が競争力を取り戻すことは明らかであり、米国への資金還流と更なる繁栄は約束されたようなものだろう。また、同法案ではオバマケアの強制加入義務付けを廃止する付帯法案によって、春から夏にかけて失敗したオバマケアの見直し・廃止も実質的にクリアしている。

筆者は当初からトランプ大統領・共和党政権に多大な期待をしていた(「トランプは米国の「破壊者」ではなく「救世主」だ!」2016年5月、「トランプバブル到来!「今すぐアメリカ株を買え!」」2016年12月)ものの、共和党内の分裂を積極的に調整してこなかったトランプ大統領の政治姿勢には若干の疑問を抱いていた。

しかし、バノンらのいい加減な分子が政権から排除されるとともに、リベラルな傾向が強いトランプファミリーの影響力がロシアゲートなどによって低下したことによって、この年末にかけてあるべき共和党大統領と共和党議会の関係に正常化されてきたように思う。その結果として、トランプ大統領が大きな成果を挙げたことは、米国と世界にとって良い知らせであった。パリ協定離脱だけでなく様々な環境規制は米国経済の最も大きな足枷となる規制群であり、それらの規制を緩和したことも米国経済にとって大きなプラスとなった。既にエネルギー埋蔵量で世界1位となったという観測がある米国の戦略として無用な環境規制を緩和していくことは当然の帰結であろう。(なお、共和党側は温室効果ガス自体については問題と認識しており、同問題への対応は規制ではなく技術革新によって対応していくとしている。)不法移民対策についても犯罪・麻薬対策の観点も含めて不法移民に甘い聖域都市などへの断固たる対応を実施しつつあり、最高裁判事の指名問題では保守派のゴーサッチ氏を据えることに成功した。

トランプ大統領については大統領選挙当時から現在に至るまでメディア・有識者による様々な論評が実施されてきた。その中でも、大統領当選に伴う経済的なトランプショックを煽り立てるトンデモ論説、バノンの歴史観にかぶせた世界終末論など、ギャグとしてはなかなか面白いものが多かった。そして、バノン、クシュナー、コークなどの様々な「黒幕」候補を仕立て上げるSFのような陰謀論は、米国政治についてほとんど何も知らない有識者もどきの人々にとっては良い小遣い稼ぎになったことだろう。

しかし、当たり前であるが、世界はリアルで出来上がっているわけで、それらの妄想は1つも実現することはなかったし、米国政治、そして世界の政治は複雑な要素の絡み合いでできている。そして、来年も私たちは現実の世界の中で生きていかなくてはならない。

来年、2018年は中間選挙の年である。したがって、共和党内では選挙の中核となる保守派の力が増すとともに様々な政策アジェンダに彼らの影響が更に拡大していくことになる。実際、2017年のアジェンダの大半、オバマケアの廃止・見直し、税制改革、規制緩和などは保守派がアジェンダとして設定した順番通りに実行されてきた。これらの保守派のアジェンダはほぼ達成された形となっており、中間選挙では彼らは2017年の功績の維持・拡大を主張していくことになるだろう。

2018年2月に予定されている保守派の年次総会であるCPACにおいて、トランプ大統領ら主要閣僚が保守派に向けたアピールを追加で行うことが予測されるため、同会場でPRされる2018年前半の選挙向けのアジェンダ設定には一層注意を払いたい。ただし、保守派が好まない政策であるインフラ投資に関しても、2017年ではワザと先送りにされてきた経緯があるものの、2018年の選挙イヤーでは選挙対策上の観点から積極的に打ち出されていくことになるものと推測される。PPPなどの民間ノウハウを利用する形で投資資金を引き寄せつつ、現実にはインフラ政策は上院の改選選挙区での勝利に向けて利益誘導に振り向けられていくことになるだろう。

現在、共和党・民主党の議会支持率差は各種世論調査平均で13%程度まで引き離されているが、非現実な選挙戦略によって政局に関与するバノン前首席戦略官の影響力がアラバマ州の上院選挙敗北によって落ちたことは、来年の選挙戦に向けて数字が改善されていくであろう前向きな材料となっている。ロシアゲートや北朝鮮問題など支持率の足枷になる要素も残っているものの、それらをうまく処理することができれば、必ずしも現在の世論調査の通りには事は運ばず、共和党が上下両院で過半数を残す可能性も残っている。(筆者はロシアゲート問題は簡単に片付かず、ヒラリーメール問題のように喉に刺さった骨のように尾を引くのではないかと予想しているが。)

いずれにせよ、2017年は後世から振り返れば、米国の政治史上偉大な年になったと評価されることになるだろう。そして、オバマ大統領のように世界の諸問題を放置し続けた演説だけの大統領ではなく、トランプ大統領はバッシングされつつ歴史的偉業を成し遂げる大統領になるかもしれない。その評価を確定させていくのは2018年中間選挙を含めた今後の残3年間のトランプ大統領の任期である。2018年もトランプ大統領、共和党の動きを常に追い続けていきたい。

渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

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