日韓合意の非公開文書を2年で公開

長谷川 良

「外交世界では『日本だけでなく、他の国のカウンターパートにも韓国はいつでも政権が交代されれば非公開合意が公開される可能性があるという先例を残し、不信を招きかねない』という懸念の声が出ている」

上記の文書は日本メディアの社説でも論評でもない。韓国大手日刊紙中央日報(日本語版)の記事の最後の個所だ。この正論を見つけた時、 事件の核心を理解しているジャーナリストが韓国にもいると知ってホッとした。

▲日韓慰安婦問題の検証報告を公表する韓国外務省(2017年12月27日、韓国外務省公式サイトから)

旧日本軍の慰安婦問題に関する「日韓合意」(2015年12月)を検証してきた韓国外務省の直属作業部会(外交官や専門家計9人で構成)は27日午後、検証結果を公表した。ポイントは2点だ。一つは日韓合意には公開された合意内容の他、非公開の内容があったこと、もう一つは「協議過程で、被害者の意見を集約しないまま、政府の立場を中心に合意をまとめた。そのため元慰安婦らとの意思疎通を欠いていた」という点だ。

2点目は韓国側の責任であり、日韓合意を焦った当時の朴槿恵政権が批判を受けることになる。最初の点は中央日報が指摘したように今後の韓国の外交にも深刻な影響を与える問題を含んでいる。この場合、韓国側の外交文書の扱い方だ。

今年7月31日に設置された韓国外務省作業部会が計20回の会議を実施してまとめた報告内容は日本とは関係がない。河野太郎外相は談話を発表し、「合意に至る過程に問題があったとは考えられない。韓国政府が合意を変更しようとするなら、日韓関係は管理不能となり、断じて受け入れられない。引き続き着実に実施するよう強く求める」(時事通信)と要求している。その通りだろう。日韓合意に問題点が浮かび上がってきたとすれば、韓国側はそれを検証し、その責任を明確にし、再発防止に努める以外にない。

検証自体が「日韓合意に国民の不満がある」という認識から、文在寅政権がその日韓合意のプロセスを検証したわけだから、問題の最初からその検証結果まで、全ては韓国側の事情だ。日本側としては、韓国がどのような教訓を日韓合意で引きだすとしても2年前に合意した外交文書の内容が速やかに履行されることを願うだけだ。ボールは韓国側にある。2年前の日韓合意の検証問題は純粋に韓国の国内問題だからだ。

ここでは非公開文書の内容について、少し考えてみたい。日韓合意での非公開文書では、①韓国政府が慰安婦関連団体(韓国挺身隊問題対策協議会)を説得すること、②海外に少女像を設置することを支援しないこと、③ソウルの日本大使館前に設置された少女像の撤去、④韓国政府は今後、「性奴隷」といった表現をしないことの4点について日韓両国の立場がまとめられている。

報告書では、「韓国側は交渉の初期から慰安婦被害者団体と関連した内容を非公開として受け入れたが、これは合意が被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で行われたことを示している」(韓国聯合ニュース)と受け取っている。その上で、「韓国政府が少女像を移転し、第三国で追悼碑を設置しないよう関与し、性奴隷の表現を使用しないよう約束したわけではないが、日本側がこうした問題に関与できる余地を残した」と評している。すなわち、非公開部分の多くの内容は韓国側の事情でこれまで公開されなかったことを暗に認めているわけだ。

中央日報は、「非公開の外交文書を合意2年後に公開するということに法的な問題はないだろうか」と韓国政府に疑問を呈している。同紙によると、「公共機関の情報公開に関する法律」では、「国家の安全保障・国防・統一・外交関係などに関する事項として公開される場合、国家の重大な利益を顕著に害する恐れがあると認められる情報(第9条2項)」を非公開にした。そして「外交文書公開に関する規則」には、外交文書を30年間非公開にして、その後の外交文書公開審議会の審査を経て一般に公開することができるように定めているという。

日韓合意は2015年12月だ。2年という短い期間後、韓国は国内事情もあって日韓の外交合意の非公開内容を公表したことになる。中央日報記者でなくても、この点こそ韓国外務省直属作業部会がまとめた検証報告書の最大の問題点といわざるを得ない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。