改宗するイスラム教徒が出てきた!

長谷川 良

中東・アラブ諸国でイスラム教徒がキリスト教に改宗する現象が見られるという。同時に、欧州に入ったイスラム系難民がキリスト教に改宗する数が増えてきた。後者の場合、難民申請でキリスト教徒の方が難民認知で有利という事情から改宗するケースがあり、偽装改宗ではないか、といった声も聞かれる。

▲「反テロ宣言」に署名したイスラム教指導者たち(「オーストリア・イスラム教信仰共同体」のHPから)

オーストリア日刊紙クリアとのインタビュー(1月21日)で著名な中東専門家の政治学者トーマス・シュミディンガー氏は、「イスラム諸国で無神論者になったり、キリスト教に改宗する傾向が見られ出した。イスラム教徒のキリスト教改宗は命がけだ。同時に、イスラム系難民申請者の中には難民認知でプラスとなるうえ、強制送還の危険性が少ないという理由から改宗するケースも増えている」と述べている。
同氏によると、中東の地域では、当局の監視の目から逃れるため地下教会が生まれているという。中国共産党独裁政権下の地下教会を想起させる情報だ。

オーストリアのローマ・カトリック教会の情報によれば、昨年1年間で成人が洗礼を受けた数は750人だった。過去最高だ。首都ウィーン市だけでもその数は15カ国、計260人になったという。幼児洗礼とは異なり、成人になってからの洗礼は特別だ。

ウィーン大司教区の広報担当者によれば、昨年の改宗者750人のうち、約75%はイスラム教徒からの改宗という。例えば、イランでイスラム教徒がキリスト教徒に改宗すれば、極刑に処されるケースが少なくないという。
イスラム系難民申請者の改宗に対して、偽装改宗という疑いが払しょくされないが、同広報担当者は、「それは偏見だ。なぜならば、イスラム系難民の改宗の場合、少なくとも1年の準備期間がある。信仰姿勢から礼拝参加状況、生活姿勢など厳密なハードルがある。教会は偽りのキリスト者を願わない」と強調する。ちなみに、プロテスタント系教会信者に改宗したイスラム教徒の数は昨年230人だった。

ローマ・カトリック教会を含むキリスト教とイスラム教はその教義や信仰実践は異なるが、似ている点も少なくない。両宗教は「信仰の祖」アブラハムから派生した唯一神宗教であり、ユダヤ教のルーツを共有している。そして聖書に登場するモーセ、イエス、そして聖母マリアは、イスラム教コーランでも重要な役割を果たしている。マリアは同名だが、イエスはイスラム教ではイ―サーと呼ばれている。もちろん、違いはある。聖書では、アブラハムは息子イサクを献祭するが、コーランではイサクではなく、イシマエルとなっている。

それでは、なぜキリスト教に改宗するイスラム教徒が出てきたのだろうか。最大の理由はイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)の蛮行にある、と指摘する宗教学者もいる。イスラム国のカリフを宣言し、他宗派信者を殺害する姿を目撃した敬虔なイスラム教徒は自身の宗教に懐疑的となり、イスラム教から距離を置くか、他宗派に走る。聖書を読んで、覚醒したというイスラム教徒の証言も報道されている。

中東・北アフリカ諸国から2015年、100万人を超えるイスラム系難民がドイツに殺到したが、イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義をドイツに輸入する結果となった(「イスラム系移民のユダヤ人憎悪」2017年12月22日参考)。同時に、数はまだ少ないが、難民の一部はキリスト教に改宗するケースが出てきたわけだ。
ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3大宗派が欧州で「文明の衝突」を繰り返す一方、緩やかだが「文明の統合」も見られ出した、というべきかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。