バラバと左の強盗が手を結ぶ時

イエスが十字架に架かった時、2人の強盗が同じように十字架に架かっていた。左側の強盗はイエスに、「お前がキリストだったら十字架から降り、俺たちを助けてくれ」とうそぶいた。すると右側の強盗が、「何を言うのか。われわれは自身の悪行の結果、十字架にかかっているが、この方は何も悪いことをしていない」と述べ、イエスを慰めた。イエスは右の強盗に、「あなたは今日、私と共に楽園にいるだろう」と述べている。

▲プーチン大統領(中央)、イランのロウハニ大統領(左)、そしてトルコのエルドアン大統領(右)=2017年11月22日、ロシア南部ソチ、ロシア大統領府公式サイトから

上記の話は新約聖書「ルカによる福音書」第23章に記述されている。左の強盗は神を信じない無神論世界に生きる人間を象徴し、将来生まれてくる共産主義を予示していた。共産主義者を“左翼”と呼ぶのは左の強盗から派生している。一方、右側は神を信じる民主主義の登場を示唆し、右翼という表現はこの右の強盗に起因している(右翼は本来、神を信じる人々を指したが、最近の右翼には神を否定する無神論者も加わっている)。

話は少し戻る。ローマから派遣された総督ピラトはイエスが無実であることを知っていた。出来れば釈放したかったので、ユダヤ人に聞いた。「囚人バラバを救いたいか、イエスを救いたいか」と。大多数のユダヤ人は暴動と殺人で捕まっていたバラバの釈放を願い、イエスに向かって「十字架を」と叫んだ。それを聞いた、総督ピラトはイエスを十字架に引き渡した。

バラバはイエスの生前中、イエスの死によって実際救われた最初の人間だった(「マタイによる福音書第27章)。ちなみに、スウェーデン作家、ペール・ラーゲルクヴィストはイエスに救われたバラバのその後の遍歴を小説で描いている。そのバラバの末裔から7世紀にイスラム教が出てきた。アブラハムを信仰の祖とする点ではユダヤ教、キリスト教と同じだが、彼らの両手には“コーランと剣”が握られていた。

左の強盗の末裔から神の存在を否定する無神論世界観、人生観が生まれ、共産主義として結実していった。共産主義の歴史が粛清の歴史であり、血の歴史であったことは決して偶然ではない。
一方、右の強盗から生まれた民主世界は冷戦時代、共産主義との戦いで勝利したが、その後、民主世界内で腐敗と貧富の格差などが席巻し、民主主義の土台となるべきキリスト教は世俗化に陥り、その生命力を急速に失っていった。それに呼応するように、共産主義の末裔たちが次第に力を回復させてきた。

一挙に話は21世紀に戻る。ロシア南部ソチで1月30日、シリアの和平実現を目指してシリア各勢力を集めて「シリア国民対話会議」が開かれたばかりだ。ロシアはトルコやイランと共に、国連主導の和平協議とは別の枠組みでシリア和平の実現に積極的に乗り出してきた。

冷戦で失った大国を復帰するために腐心するロシアのプーチン大統領は、その勝敗のカギがイスラム教圏で影響力を拡大することにあると喝破し、イラン、トルコ、シリアなどのイスラム教国と結束を深めていく。忘れてはならない点は、ロシアの背後に中国共産党政権が息を潜めながら時の到来を待っていることだ。

プーチン大統領、イランのロウハ二大統領、そしてトルコのエルドアン大統領の3首脳が昨年11月22日、ロシア提唱のシリア会議開催で一致し、手を握っている写真が世界に配信されたが、この写真ほど共産主義とイスラム教が結束し、キリスト教に対抗するという聖書的予言を見事に物語っているものはないだろう。

21世紀に入り、生命力を失ってきた民主キリスト教圏に対し、冷戦時代で一旦敗北を喫した共産主義がイスラム教圏と連携して再戦を挑んできている。民主圏の代表、米国がこの戦いで冷戦時代のように主導力を発揮できるだろうか。

トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの首都をエルサレムと見なし、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると公表したが、この発言は相手側の機先を制した米国の戦略的決定とも受け取れるわけだ。冷戦第2ラウンドのゴングは既に鳴った。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。