バチカン、対中関係正常化に譲歩?

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが2日報じたところによると、バチカン法王庁は中国の官製聖職者組織「愛国協会」が公認した7人の司教の破門を解き、公認する一方、中国共産党政権は「愛国協会」公認の司教選出でローマ法王に拒否権を与えることで一致したという。同時に、バチカン使節団が昨年12月、訪中し、地下教会の2人の司教に辞任を要求したという情報が流れた。

▲バチカンの中国接近に警告を発する陳日君枢機卿(香港司教区のHPから)

中国共産党は1949年、バチカンとの外交関係を断絶し、「愛国協会」を創設し、共産党政権に忠実な聖職者を任命してきた。フランシスコ法王は中国のカトリック教会が「愛国協会」所属と地下教会に分裂していることを憂慮し、その克服のために腐心してきた。

それに対し、香港カトリック教会の前最高指導者(2009年離任)陳日君枢機卿(Joseph Zen Ze-kiun)はフランシスコ法王宛てに一通の書簡を送り、「全体主義国の権力に完全屈服するようなことはすべきでない」と異例の警告を発している。
陳日君枢機卿によると、バチカンはローマに忠実な司教たちに辞任を強要している。地下教会の信者、聖職者を犠牲にし、中国共産党政権と協定を模索しているというのだ。

それに対し、バチカンのナンバー2、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿はイタリア代表紙ラ・スタンパとのインタビューの中で、「バチカンは中国の国家機関の改革を要求する考えはない。大切な点は信仰だ。地下教会信者たちを犠牲にする考えはない。ただし、バチカンは中国共産党政権といつまでも対立関係を続けていくことはできない」と述べ、中国との間でなんらかの解決を模索していることを示唆している。ちなみに、愛国協会に所属する信者、聖職者は約500万人と推定されている。一方、ローマに忠実な地下教会の信者、聖職者数は700万人から120万人と見られる。

バチカンは中国共産党政権との関係樹立に腐心してきた。中国外務省は過去、両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。
中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した「愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。一方、ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されたりした。バチカンは司教任命権を主張し、「愛国協会」任命聖職者の公認を久しく拒否してきた経緯がある。

バチカン内には、対中関係の正常化を求める声は強い。カトリック教会にとって中国は魅力的な宣教市場だからだ。前法王ベネディクト16世の時、バチカンと中国はかなり接近したことがあった。同16世は2007年6月、中国カトリック信者に宛てた書簡を送り、バチカンの中国人信者への熱い関心を吐露している。

バチカン法王庁と中国共産党政権は過去、双方合意のもとで1人の司教を任命したことがあった。このニュースが伝わると、「バチカンと中国の国交樹立は近づいてきた」といった観測報道が流れた。フランシスコ法王時代に入っても対中国政策に変化は見られなかった。フランシスコ法王は2014年12月、法王との謁見を望んだダライ・ラマ14世との会見を拒否するなど、中国を配慮した懐柔路線を取ってきた。

ちなみに、香港の英字日刊紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは今月1日、台湾の5人の国会議員がローマ法王謁見を求めたと報じた。5人は1週間の日程で欧州を歴訪中で、「バチカンを訪ね、台湾側の意向を伝え、バチカンとの関係を促進させたい」という。フランシスコ法王が5人の台湾議員の謁見を受けたかは何も報じられていないので不明だ。バチカンは台湾と1942年以来、 外交関係を樹立している数少ない国だ、

なお、今年に入って、中国共産党政権はキリスト教会の建物を破壊するなど強権を発揮している、中国北部の山西省臨汾(Linfen)市で1月9日、キリスト教会「金灯台教会」の大きな建物が当局によって取り壊された。中国当局側の説明では「当局の許可なく建設されたからだ」という。

中国共産党政権は、「わが国は憲法で信教の自由を認めている」と豪語してきたが、国内の宗教団体や教会を厳しく統制し、必要ならば教会建物を破壊し、信者たちを拘束している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。