ツイッターでもつぶやきましたが、良い機会なので整理しておこうと思います。
この一件は、東京大田区の町工場が開発し、ジャマイカチームに提供した通称「下町ボブスレー」が、五輪開催直前にチームから使用拒否の憂き目にあい、町工場側が損害賠償請求訴訟も辞さずという泥沼に発展しているというものです。池井戸潤さん原作のドラマ「下町ロケット」のヒットもあって、同様に下町工場の技術力の高さのPRを狙ったのでしょう。
ところが、残念ながら朝日新聞の記事のように「遅い、安全でない、検査不合格」といった露出が出てしまい、むしろ大田区の町工場ブランド価値を落とす結果になってしまいました。オリンピックのような国際的に注目度が高まるイベントでは、それが公式協賛企業であるかどうか、あるいは協賛活動に関係する文脈かどうか、に関わらず、不祥事に注目が集まってしまい、自社の悪評を不本意に広めてしまう結果になりかねないリスクが潜んでいますので、注意が必要です。
例えば、2012年のロンドンオリンピックでも、TOPスポンサーとして、大会組織委員会の運営をバックエンドからサポートするITインフラの構築を一手に引き受けていたAtoS社が、パラリンピックに協賛しているにも関わらず障がい者への給付金カットにつながる調査を行っているとして大きな批判にさらされたり、同じくTOPスポンサーのDowが過去にインドで多数の死傷者を出した企業を買収していたことから、「オリンピック協賛に支払う金があるのなら、事故の補償をすべき」と批判にさらされるなど、年間数十億円という巨額の権利料を支払ってわざわさ自社の悪評を広める“恥さらしマーケティング”に足元をすくわれてしまいました。
また、先の週末に開催されたSuper Bowlは一日イベントとして世界で最も大きな露出を誇るスポーツイベントですが、この試合中にオンエアされたCMも、内容によっては後日大きな批判にさらされるリスクがあります。例えば、Ram Truckは、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として活動したキング牧師(Martin Luther King Jr.)の演説をCMに活用したことで批判を受けています。人種差別撤廃を求めて運動した同氏の歴史的な演説を、トラックを販売する商業活動に安易に使うなという批判です。
また、こちらは米国では問題視されていないものの、日本で同じCMがオンエアされたら物議をかもすかもしれないなと思ったHyundaiのCMです。「Hope Detector」(希望探知機)と題されたこのCMでは、Super Bowl入場口で同車のオーナーを“探知”し、自動車購入時に併せて行われたガン研究基金への寄付により一命をとりとめた患者たちが感謝の意を述べるというものです。
こうした、いわゆるCause Marketing(慈善行為に結びつくことを消費者に訴求することで、商品・サービスの販売促進、製品ブランドや企業のイメージアップを狙うマーケティング手法)は米国では一般的なマーケティング手法として定着していますが、日本で同じことをすると、「病人を使って金儲けするなんて」と嫌悪感を感じる方がいるかもしれません。
ソーシャルメディア全盛の現在、マーケティング活動に国境がなくなってきていますが、こうした文化的・社会的背景の違いにリスクが潜むこともあり得ますので、注意が必要です。とはいえ、教科書的な表現ばかりになってもエッジの効いた広告にはならないでしょうから、その辺りの絶妙なバランス感覚が求められるんでしょうね。マーケターには厄介な時代になったのかもしれません。
編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2018年2月7日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿:アイキャッチ画像は下町ボブスレー公式サイトより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。