カナビス(大麻)の合法化は危険だ!

長谷川 良

INCBの昨年の「年次報告書」

「ドイツ刑事協会」(Der Bund Deutscher Kriminalbeamter,BDK)でカナビス(大麻)の合法化を要求する声が高まっている。BDKのアンドレ・シュルツ議長は大衆紙ビルトとのインタビューで、「カナビス禁止は歴史的にみても無理があり、知性的にも目的にも合致していない。人類の歴史で麻薬が摂取されなかった時代はなかった。この事実を受け入れる以外にないろう」と述べ、BDKはカナビスの完全な自由化を支持している。

多分、BDKの「カナビスの合法化」要求は突然飛び出したものではないだろう。不法麻薬業者の壊滅のために日々、努力をしてきた麻薬取締官にとって、不法カナビスを摂取する者を見つけ、拘束する日々の歩みが限界に達してきたのではないか。カナビスを非合法化するから、それを密売して儲けようとする密売業者が出てくる。カナビスを買う人間と売る人間、そしてそれを取り締まる警察の3者が織りなしてきた人間ドラマに疲労感が出てきたのかもしれない。そこで「合法化すれば密売業者はいなくなる」といった考えが飛び出してきても不思議ではない。ドイツの場合、麻薬の自由化を叫ぶ一部グループの要求ではなく、刑事関係者が要求し出したところにニュース性があるわけだ。

BDKによれば、現行の麻薬関連法は多くの国民を犯罪人にし、新たに犯罪を生み出すだけだ。だから、強権で取り締まる麻薬対策は限界にきているというわけだろう。

ドイツでは昨年3月以来、医者から処方箋をもらえばカナビスを合法的に入手できる。例えば、重病の患者は医者の処方箋を受ければ健康保険でカナビスが手に入る。ただし、医療目的以外の大麻の売買は依然、認められていない。

ところで、ウィ―ンに事務局を置く国際麻薬統制委員会(INCB)はカナビスの自由化には強く反対している。INCBは毎年春、前年の年次報告書を発表してきたが、オランダなど大麻の自由化を進めている加盟国に対して、「若い世代に間違ったシグナルを送り、麻薬の拡大を助長させる危険性がある」と警告を発してきた。

INCBによれば、麻薬をソフト・ドラックとハード・ドラックに分類すること自体が間違いで、「大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)、例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)が含まれている」と指摘し、大麻の自由化は危険だと強調している。

世界でここ数年、合成麻薬の乱用が拡大、それに溺れる人々が増えてきた。例えば、中国で目下深刻な問題は合成麻薬の拡大だ。同国公安部当局は合成麻薬の拡大を阻止するため特別活動を展開し、合成麻薬の乱用者の監視を強めている。ドイツでも薬物関連犯罪が増加してきた。若者たちはダークサイト(闇サイト)を通じて不法な合成麻薬を入手するケースが増えてきている。麻薬を一旦摂取すると、習慣となり、次第によりハードな麻薬を手に入れようとする。

もちろん、医療用麻薬の安全供給は重要なテーマだ。特に、開発途上国では、医療用麻薬の確保が大きな問題となっている。米国などでは逆に医療用麻薬の乱用が社会問題となっている、といった具合だ。

米紙ニューヨーク・タイムズは「アルコールより危険の少ない大麻を禁止することで社会に大きな害を与えている」という社説を掲載したことがあるが、INCBが指摘するように、大麻には危険な化学成分が含まれているのだ。その意味で、BDKの「大麻の合法化」要求は麻薬犯罪を取り締まる側の現場の声だが、反対せざるを得ない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。