【映画評】リバーズ・エッジ

渡 まち子

郊外の工業地帯の町。女子高生のハルナは、自由に生きていても、何事にも執着できず、息苦しさを感じていた。ある時、カレシの観音崎から執拗なイジメを受けているゲイの山田を助けたことがきっかけで、山田から「僕の宝物を見せてあげる」と誘われ、夜の河原にある死体を見る。同じく宝物として死体の存在を共有する摂食障害のモデル・こずえが現れ、3人は友情とは異なる歪んだ絆で親しくなっていく。一方で、ハルナと山田の距離が近くなるのを見て、暴力を加速させる観音崎、ハルナの友人なのに観音崎と身体の関係を続けるルミ、山田が同性愛者と知らずに思いを過激に募らせるカンナなど、若者たちのさまざまな感情が交錯していく…。

都市に生きる若者たちの不安をすくい取った異色の青春映画「リバーズ・エッジ」。原作は「ヘルタースケルター」など多くの代表作を持つ岡崎京子による人気同名コミックだ。時代背景は90年代だが、本作に描かれる漠然とした焦燥、欲望、衝動などは、不思議なほど現代の若者たちの心の揺らぎを照射している。時折挿入されるキャラクターのインタビューが90年代から現代へのメッセージに思えてくるほどだ。河原に放置された死体を見て、勇気や安心を感じる歪な感情は、死をまのあたりにしないと生を感じられないからだろうか。死体を共有することで繋がりを感じる彼らの心の隙間は、想像以上に深く暗い闇に思える。そしてその闇は、爆発寸前まで感情が膨らんだ若者たちをある悲劇へと導いていくのだ。

行定勲監督にとって初めての漫画原作ものだそう。この作品を選ぶとは、なかなかのセンスだ。暴力、いじめ、セックスなど、描かれる内容はハードだが、R15も辞さない演出は的確なものだ。俳優たちは皆、体当たりの演技で好演しているが、やはり若き演技派の二階堂ふみが群を抜く。物事にも人にも執着できず、空虚を抱えながらも、生きることを切望するハルナ。ハルナのインタビューが、キャッチコピーにある“平坦な戦場”で生き抜く不器用なヒロインの覚悟を物語っていた。
【70点】
(原題「リバーズ・エッジ」)
(日本/行定勲監督/二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、他)
(焦燥感度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。