朝日新聞や立憲民主党はリベラルを自称してますが、これは、おかしな言葉の使い方ではないか、世界的には非常識ではないかという質問をよく受けます。そういう疑問にきちんと答えたいと言うことで、『「立憲民主党」「朝日新聞」という名の偽リベラル』(ワニブックス)を書き、本日、正式発売です。Amazonで予約した方にも届くでしょう。300ページほどありますが、価格は税込み1400円に抑えています。内容の詳細は、本を見ていただきたいのですが、ここでは、著者インタビュー風に一問一答でまとめてみました。
問 リベラルの本来の意味はどういうことなのでしょうか
答 辞書的には「自由を重んじること」ということになるのでしょうが、それはあまり意味がありません。19世紀のイギリスで、ディズレーリーらのトーリー党(保守党)とグラッドストーンらのホイッグ党(自由党)が対立していたんですが、そのうち後者の考え方がリベラリズムの原点です。
問 その二大勢力にどういう意見の対立があったのですか?
答 わかりやすくというと、伝統的な支配層である貴族階級や地主などと結んでいたのが保守党で植民地経営にも熱心。それに対して、新興ブルジョワジーの価値観を代表して、参政権の拡大を要求し、経済においては自由主義、「植民地よりも自由貿易で稼げればいいのではないか」という路線を取るのが自由党でした。それから、宗教について保守的なのが保守党で、宗教の束縛を嫌うのが自由党でした。
問 そのパターンがずっと続いているのですか?
答 いいえ。ヨーロッパでは19世紀の後半から社会主義者が強くなって、とくに、第一次世界大戦のころからは、イギリスでも「労働党」(レイバー・パーティ)が、はじめは、三大政党のひとつになりました。そして、イギリスでは、自由党の支持者が保守党と労働党のどちらかに吸収され、自由党は小政党になり保守と労働の二大政党になりました。
大陸諸国では、小選挙区でないので、二大政党にならず、保守主義、自由主義、社会主義、それに穏健な中道派でキリスト教的な福祉重視のキリスト教民主主義、さらに、共産主義、極右、極左などに細分化されたのです。
問 最近のヨーロッパはどうなっていますか。
答 国によりますが、穏健な保守政党と、やはり穏健社会主義の政党の二大政党が基本です。しかし、社会主義政党は行き詰まって、市場経済を容認しつつ社会福祉は重視するリベラル・ソーシャリズムに移行していく一方、党内左派は共産党などと組んでポピュリスト的な新しいタイプの左派政党として分離する傾向にあります。
問 極右の台頭も目立ちますね。
答 移民問題や欧州統合などで保守政党が自由主義的で融和的な主張をし、さらに、福祉を削減して市場機構にまかそうという路線なので、国粋主義的な人たちや中小企業者、後進地域の人々はそれに飽き足らず、極右政党が人気を博しています。つまり右にも左にもポピュリスト的な傾向が出ていると言うことです。それから、環境政党や地域政党も力を伸ばしています。
問 アメリカのリベラルも同じような意味ですか?
答 アメリカではもともとは、連邦主義と反連邦主義というのが対立の主軸でした。独立当時のハミルトンとジェファーソンがその代表者でした。そして、南北戦争では共和党のリンカーンが前者で北部で強く、民主党は南部で優位でした。
ところが、20世紀に入ると、共和党は大都市の資本家などに支持され、民主党が都市労働者にも支持を広げてきました。
また、資本主義の横暴に対して、共和党の左派は公正な競争を推進することで対処しようとしたのに対して、民主党の左派は政府の介入を重視しました。また、民主党の左派は理想主義的で、共和党は現実主義でした。
問 戦後になるとまた違ってきたのでしょう
答 戦後になると、人種差別撤廃が問題になって、民主党のなかで南部の人たちの意見が通らなくなって、大都市部では民主党、中西部の農村・工業地帯が共和党というようになって現在に至っています。
そして、新しい民主党の支持層が支持する、人種差別に反対、人権、環境、福祉などを重視し、対外的にはハト派というような政策をリベラルというように呼び、経済でも価値観でも政府介入を嫌い、キリスト教道徳を重視し、外交ではタカ派といった傾向を保守派というようになりました。
このあたりになると、民主党と共和党の政治家たちの違いをあとづけ的に説明しているだけのような気もします。正義の重視という観点からリベラリズムを整理したジョン・ボードリー・ロールズ(1921 – 2002年)というアメリカの学者をリベラリズムの教組のように扱う人もいますが、マルクスの共産党宣言があってマルクス主義が生まれたのと違って、後追いの上手な説明だというだけです。
問 日本では、以前は自民党の宏池会あたりの考え方をリベラルといってたような気がしますが?
答 かつては自民党の中における「全面的な戦前回帰に否定的で親欧米的な人たち」を指していました。
問 しかし、このごろ自民党ではリベラルを名乗る人はあまりいませんね。
答 そうなんです。サッチャーやレーガンが成功して保守という言葉が前向きに受け止められるようになってからですね。それから、小選挙区になってからは、保守といった方がコアな自民党支持層をつかまえやすいというのもある。
問 しかし、だからといって、左翼の人がリベラルというのはおかしいでしょう。
答 世界的な基準に照らし合わせてみても、これは何ともユニークな言葉の使い方です。政治用語として「共産主義や社会主義に共鳴する人々」を「リベラル」などと笑止千万な表現することは欧米諸国では絶対にあり得ません。
問 しかし、どうしてそうなったんですか。
答 冷戦が終わって社会主義を名乗るのがかっこうわるくなったんでしょう。だから、かつて左翼だとか革新と行ってた人が、なにも考え方は変わっていないのにリベラルと言い出した。
問 まったく外国のリベラルと似てないんですか?
答 自民党がアメリカの共和党的な路線に傾いたから、それに反対するというところで、部分的には似た主張もあります。しかし、戦後の日本政治が実現してきた経済社会の姿は、貧富の差も小さい総中流社会であって、欧米的な考えでいうと非常にリベラルな理想にかなうものです。それを推進した自民党や、その連立相手の行う政治が「アンチ・リベラル」とはいえません。また、外交や防衛でアメリカの民主党より自民党政権の方がタカ派だとはいえるはずもない。
問 旧民社党はリベラル政党だったのでしょうか。まず、旧社会党や旧民社党は?
答 旧社会党グループは完全な左派であってリベラルとは縁遠い。旧民社系は大企業労組の利益代表という特殊な立ち位置ですが穏健左派でしょう。
問 小沢一郎さん系列は?
答 自民党を飛び出した頃の小沢さんは新自由主義者だったはず。それが共産ととでも組むというのは、政局だけしかか考えてないとしか説明が付かない。政治思想的には説明不能ではないか。自民党の権力闘争に負けて外に出て、自分の思い通りになる新しい自民党そっくりの政党をつくろうということか。しかし、政党は思い通りにならないものだから根本矛盾がある。外交路線は国連中心主義だが、日本が運営の中心に関与できずに中国やロシアが関与している国連に下駄を預けるという考え方をどう合理的に説明するのか。
問 旧日本新党や旧さきがけは?
答 旧日本新党や旧さきがけは政治改革が主たるテーマなんで、政策的には色分けしにくいが、旧日本新党は穏健保守ないしリベラル、さきがけはヨーロッパ的にはリベラル左派から穏健左派が中心線だったのでしょうが、日本新党には小池百合子のような保守派が結構多かったし、さきがけには、菅直人や枝野さんのような左派色が強い人もいた。創始者の細川護煕や武村正義をリベラルというのはそんなにおかしくはないが。
問 その系統に多い松下政経塾系は。
答 松下幸之助の思想はユニークなもので位置づけが難しいが、独特の中道主義だが、それをリベラルとは普通いえない。いずれにしても、思想より政治改革が原点であり、保守中道でありながら旧来型の自民党内での権力闘争出てこれない人たちの集まりだった。そういう人が、日本新党、さきがけ、旧民主党に集まった。ただ、最近の自民党は公募などでの枠が広がっているので、そんなこともなくなったので、周辺状況が同じでない。
問 枝野さんはリベラル?リベラル保守ともいっているが。
答 彼の政治思想はある種の正義感と政局目当ての極度のご都合主義との混合物で論理的な説明はつきにくい。「保守でもある」といっているのは、イメージ戦略から来ているとしかみえないが、しいていえば、「左派的な戦後民主主義」を「保守」するのだから保守だといいたいのだろうか。
問 公明党はリベラルではないのですか
答 伝統的に宗教をバックにした政党をリベラルとはいわないというだけのこと。公明党というのは、ヨーロッパでいうとキリスト教民主主義に似てます。いわば仏教民主主義ですね。社会福祉や人権、平和重視ですから政策的には似ているのですが、世界観が違うということでしょう。
問 維新や小池百合子さんはどうですか。
答 両方とも既得権益を壊して『改革』するのを目標にしています。これは、保守とリベラルとか、左派とリベラルとかいったことと、ものを見る角度が違うんだと思います。保守的な利権も左派的な利権もみんな壊すという考え方です。ただ、国家観においてはどちらも保守系だと思います。
問 保守でありリベラルだとか、リベラル保守とかいう人がいますが。
答 保守とリベラルの中間なら中道右派です。しかし、リベラル保守とかいっている人たちは保守とリベラルの主張を理屈もへったくれもなしにつまみ食いしたいだけです。アボガドを使って寿司にするのは和洋折衷ですが、ピザと味噌汁を並べて和洋折衷といわないでしょう。
問 リベラルはハト派なんでしょうか。
答 保守は現実主義的に平和を求め、リベラルは理念的に平和を大事にするとはいえますが、どっちが平和愛好なのかはなんともいえません。米中和解をしたニクソンは保守派です。
問 徴兵制についてはどうですか。
答 世界の常識としては、保守は志願兵制を好み、左翼は徴兵制を好みますし、理屈ではそうですが、日本の政治は理屈ではない。
問 環境派はリベラルですか。
答 アメリカのリベラルは保守派より相対的はそうでしょう。しかし、たとえば、原発はむしろ推進してきた経緯もあります。また、ヨーロッパでは環境派は左派とは別の政治傾向です。シングル・イシュー(単一政策課題)政党のひとつです。左派は保守派に比べれば熱心ですが、リベラルはそうでもありません。ドイツではCDU(穏健保守)、自民党(リベラル)、環境派の連立交渉が環境問題での対立で壊れ、CDUとSPD(穏健左派)の大連立になりました。
問 フランス革命を全面否定したエドマンド・バーク(1729- 1797年)を保守主義の代表というひともいますがいかがですか。
答 世界的にはフランス革命こそが民主主義の原点として認められているのですから、バークの考えが保守主義の典型だとしたら、保守主義は反民主主義だということになってしまいますからお笑いです。イギリス以外ではまったく使えない考え方です。
問 アメリカでは保守派の共和党は親日的ですが、民主党のリベラル派は反日的なことがありますがどうしてなのでしょうか。
答 リベラルは弱い者の味方をしたいとか、半植民地主義の傾向がありますから、日本がしたことが強圧的だったとみるといやがります。ただし、アメリカの民主党政権が日本以上に発展途上国との関係で融和的だったわけでありません。
また、日本の偽リベラルと違って、中国・韓国・北朝鮮での人権抑圧には保守派以上に批判的で、そこが違います。いずれにせよ、太平洋戦争では、中国人のほうがアメリカのリベラル勢力にうまく取り入った。そういうことにならないように、アメリカのリベラル派との関係は大事にしたほうが良いと思いますし、神経を逆なでしないように言葉遣いには気をつけるべきです。そういう観点から言えば、安倍首相は保守派でいながら、オバマ政権とも良かったわけですから、成功しているといえます。
問 朝日新聞はリベラルなのか。
答 緒方竹虎のような体制内でありながらリベラルな考えを持った人と、労組系の左翼との妥協の産物で朝日新聞は成り立ってきたのだと思う。岸信介系とは思想というよりは人脈が違うので戦後ずっと敵対しているということだと思う。
問 偽リベラルでなく、本当の意味でのリベラル政党はあったほうよいのか。
答 穏健保守とリベラル・穏健左派の二大勢力というのが、もっともノーマルな政治形態です。安倍首相は保守の枠内ながらリベラルな色彩の濃い政策も、時代が要求するものであれば採り入れるなどよく頑張っていると思うし、難しいトランプの時代にあって日本の国益を奇跡的に守っているとも思います。
しかし、次の時代の選択の一つとして、リベラル路線で世界的な諸問題に現実的、かつ、力強く取り組めるような政治家が、野党からであれ、あるいは、自民党の中からであれ出て、政権選択肢のひとつとなることも必要だと期待していますが、そのためには、なにを克服しなければならないかの回答を本書は書いたつもりです。