平昌冬季五輪の感動と「その後」

韓国江原道平昌で開催された第23回冬季五輪大会は25日、17日間の日程を無事終え、閉幕した。22年の次期冬季五輪開催地は北京だ。それに先立ち20年には東京夏季五輪大会が開かれる。4年に1度開催されるスポーツの祭典、五輪大会が平昌大会を含めて3回連続アジアで開催されることは初めてのことだ。アジア地域が世界の発展の原動力となっていることを象徴的に示すものとして、アジアの国民の1人として素直に喜びたい。

▲閉会式に参加したイバンカ・トランプ米大統領補佐官(2018年2月25日、ドイツ公営放送の中継から)

17日間の平昌大会では、フィギュアスケート男子の羽生結弦選手の2大会連覇はやはり記憶に残った。66年ぶりの偉業だ。一方、当方が最も感動したのはスピードスケート女子500メートルの小平奈緒選手の言動だ。勝利した直後の同選手のコメントを聞いて思わず涙腺が緩んでしまった。日韓両国関係は厳しいが、小平とライバルの李相花選手との交流史は感動的だった。

▲閉会式に行進する南北の選手たち(2018年2月25日、ドイツ公営放送の中継から)

李相花選手は競技前までライバルの小平選手を記者会見でも「あの人」と呼び、名前を呼ぶのを恣意的に避けてきたという。そして試合後、李選手は「小平」と名前が呼ぶことができた。地元韓国選手として李相花への国民的期待は大きかった。その圧力から解放された李選手は小平選手の勝利を心から「誇らしく思う」と語ることができたという。内外の圧力に屈せず健闘した李選手の強靭な精神力に脱帽する。小平選手と李選手の友情は日韓の「未来志向の関係」を強く示している。

女子スキーではスーパー大回転で勝利し、そしてスノーボード女子パラレル大回転でも金メダルを取ったチェコのエステル・レデツカ選手の活躍には驚いた。異種目競技で金メダルを取るなどこれまで考えられなかったことだ。レデツカ選手は“スキーの大谷翔平選手(大リーグのロサンゼルス・エンゼルス所属)”のような存在だ。

日本は10個を獲得した長野冬季五輪を上回る13個のメダル(金4、銀5、銅4)を獲得できた。当方が住むオーストリアは14個のメダル(金5、銀3、銅6)を獲得した。特に、アルペンスキーの王者マルセル・ヒルシャー選手は得意の回転で途中失格となったが、大回転と複合で2個の金メダルを獲得し、アルペン王者の面子を保てたことは朗報だ。スポーツの大イベント、五輪大会では多くのドラマが生まれた。喜びと感動を提供してくれた選手たちに感謝したい。

平昌冬季大会は終わった。冬季パラリンピックは来月9日から10日間の日程で始まる。五輪史上最高の経費を投入して開催されたソチ大会(ロシア)でもそうだったが、五輪開催後の関連施設の使用問題は大きな課題だ。メインスタジアムを含む五輪関連施設をいかに維持し、再利用するかは地元を含む関係者にとって頭の痛いテーマだ。将来の五輪誘致にも関連する問題だ。一方、国際オリンピック委員会(IOC)は競技開始時間と放送権の問題で再考が求められる。また、開催地の誘致問題で地元の利権問題と絡まって生じる不正問題の対策が急務だ。

最後に、「平昌五輪」は「平壌五輪」と揶揄されるほど、政治色の濃い大会だった。北朝鮮の金正恩労働党委員長は韓国で開催される大会を最大限に利用し、融和攻勢をかけてきた。それに対し、韓国側は、北の選手の五輪エントリーから南北アイスホッケー女子の合同チーム結成まで、北側の要求を無条件で受け入れるなど、守勢を強いられた。
核実験と大陸間弾道ミサイル発射で、国際社会から制裁下にある北朝鮮は開会式と閉会式に高官代表団を派遣し、南北対話をアピール。金正恩氏の妹、金与正党第1副部長は金正恩氏の親書を持参し、文在寅大統領を平壌に招待した。

パラリンピック大会後、米韓軍事演習が再開される予定だが、五輪大会期間に示した北の融和政策がどのような展開を見せるか目を離せない。例えば、北は、日米韓の結束を崩すために文大統領の平壌訪問を積極的に推し進めてくる可能性が考えられる。スポーツの祭典の五輪大会は終わったが、朝鮮半島の政情はこれから大きな山場を迎えることになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。