【映画評】ブラックパンサー

アフリカの秘境にあるワカンダ王国。そこは発展途上国と思われているが、本当の姿は世間から隔絶された超文明国だった。ワカンダで産出される鉱石ヴィブラニウムが高度なテクノロジーを可能していたが、同時にそれは世界を破滅させるほどのパワーを秘めていて、歴代の王は、悪用されないように鉱石の存在を極秘にしていた。父王の急死により、国王とブラックパンサー、二つの使命を引き継いだティ・チャラは、謎の男エリック・キルモンガーや武器商人ユリシーズ・クロウらがヴィブラニウムを狙ってワカンダに潜入しようとしていることを知る…。

国王とヒーローの二つの顔を持つマーベルのキャラクターが活躍するアクション超大作「ブラックパンサー」。国家元首として自国の利益を守るか、あるいはヒーローとして技術と富を共有し人類を守るか。この葛藤は、まさしく現代アメリカを鏡に映したものではないか。さらには、国家や正義のために血のつながりを持った敵と戦わねばならない展開は、ギリシャ神話をも思わせる。ブラックパンサーの決断は、正義と政治の両方に深く関係し、その影響力は計り知れない。黒人を主人公にしたヒーローものは、ブラックスプロイテーション映画の系譜だが、この物語の同時代性を見れば、本作が人種を超えた普遍的なテーマを扱っていると、すぐに気付くだろう。

とはいえ、黒人特有の秀でた特性を活かすことは忘れていない。彼らのルーツを思わせるアフリカの鼓動のような音楽、しなやかな体躯を活かしたアクション演出はブラックパンサーと敵手エリックの動きを流麗に見せている。暴れっぷりがハンパない、美しい女性キャラにも目を奪われた。監督のライアン・クーグラーは「クリード チャンプを継ぐ男」でもアクションに冴えを見せたが、大胆な長回しを用いるなど、むしろ長編デビュー作「フルートベール駅で」にも通じる作家性をスーパーヒーロー映画に持ち込んだセンスを評価したい。マーベルのヒーローは、神だったり大富豪だったり、緑色の大男に変身する科学者だったり…と、誰もが一風変わっているが、ブラックパンサーはその中でも別格だ。希少鉱石ヴィブラニウムはキャプテン・アメリカの盾(シールド)にも使われていて、ブラックパンサーは次回のアベンジャーズにも参戦する。だが本作の優れた点は、この1本単体でも物語がしっかりと構築されていることだ。美しく強靭な黒ヒョウの活躍を見逃してはならない。
【75点】
(原題「BLACK PANTHER」)
(アメリカ/ライアン・クーグラー監督/チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、他)
(重厚度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。