裁量労働制は、仕事を自分の裁量でコントロールできるという考え方に基づいている。本来であれば「求められる成果を上げていれば、出退勤は自由」になるはずである。しかし、多くの職場で本人に時間管理の裁量権がないことは言うまでもない。
WEB開発に従事するSEがいたと仮定する。期日までに、スケジュールどおりに業務をこなすことがこのSEの役割になる。では、その期日までに、SEは自由に出退勤をして、自由に労働時間を使って働くことができるかといえば、実際はそのようにならない。
私が勤務していたコンサルティング会社は、裁量労働制を導入していた。年初に目標が設定され、四半期ごとに進捗確認をするが、裁量が与えられていたので大きな介入はない。もっとも大切なのが年間を通じた最終的な目標達成率になる。コンサルタントのような専門職は裁量が与えられているのでわかりやすい。
元々、裁量労働制は年功序列で肥大化した総人件費を抑制することが目的とされていた。専門業務型裁量労働制は1988年、企画業務型裁量労働制は2000年の改正法施行により新設された。これにより、企業の統括部門のホワイトカラー層への広い範囲が適用となる。しかし、収入の伸びが鈍化し可処分所得は減少した。
本来、「具体的な指示をしない業務」でなければ対象として見なされないので、裁量権のない行使は違法になる。しかし、多くの会社で「裁量労働制が適用されればいくら残業させても構わない」と勘違いしている管理職の多いことか。
かつて、民主党政権時に、労働契約法が大きく改正されたことがあった。契約が更新されれば、契約期間が通算5年を超えた非正規労働者が期間の定めのない契約(正社員)に替われるというものである。しかし、「雇い止め」が大きな問題となる。結果的に、正社員との格差はさらに拡大した。
昨日、有期契約を更新して働く非正規2人を今春で雇い止めする方針を示した長崎県立大が、長崎労働局から「社会通念上認められない」との指摘を受けた報道が流れた。労働局がこのような判断をすることはめずらしいが、3月末に雇い止めにあう非正規は、今後も増えると考えられる。
筆者は、裁量労働制の範囲を拡大させることで人材流動化が促進すると考えている。人材流動化が、懸案の「同一労働・同一賃金」を実現する早道につながるとも考えている。しかし、その議論はまったく進みそうにない。
筆者新刊紹介
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尾藤克之
コラムニスト