【映画評】去年の冬、きみと別れ

渡 まち子

気鋭のルポライター・耶雲恭介は、婚約者・百合子との結婚を控え、野心的な本の出版を目指していた。狙っているのは天才カメラマンで1年前に世間を騒がせた猟奇殺人事件の容疑者・木原坂のスクープ。木原坂は盲目の美女モデル・亜希子を殺した犯人として逮捕されるが、姉の朱里の尽力で事件は事故扱いとなり釈放されていた。謎めいた木原坂の真実を暴くために耶雲は彼に接近するが、出版社の担当編集者の小林は危険な噂が絶えない木原坂に近づきすぎないように何度も忠告する。しかし取材にのめり込んだ耶雲は、気が付けば百合子まで巻き込んで、抜き差しならない罠に堕ちていた…。

ある殺人事件の真相を追うルポライターが危険な罠にはまっていく様を描くサスペンスドラマ「去年の冬、きみと別れ」。原作は芥川賞作家、中村文則による同名小説だが、映画化にあたり、核となる部分は残しながらも、大胆な改変が加えられている。天才カメラマンの周囲には、モデルの焼死事件、親殺しの疑い、異常な執着や嗜好など、さまざまな疑惑があり、謎が謎を生む展開だ。実は物語そのものに、ある重大なトリックが仕掛けられているて、それは中盤以降に明かされる仕組みだ。小説の章立てのように語られる本作だが、そこには、順番通りではない大きな理由がある。

ミステリーなので、詳細は明かせないのだが、テーマは復讐と愛だ。もちろん、無理な設定はいくつもあり、ツッコミどころも多いのだが、これはあくまで純愛サスペンス。ラストにタイトルの意味が明かされ、愛する人のために、すべてを賭けたということなら納得できよう。原作ファンは映画版ならではのトリックを、原作未読の人は、思い切り騙される快感を味わってほしい。
【50点】
(原題「去年の冬、きみと別れ」)
(日本/瀧本智行監督/岩田剛典、山本美月、斎藤工、他)
(ドンデン返し度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。