【映画評】ボス・ベイビー

渡 まち子

7歳の少年ティムは両親に愛され、幸せに暮らしていた。だがある日突然、ティムのところに弟だという赤ん坊、ボス・ベイビーがやってくる。ボス・ベイビーは、赤ちゃんなのに、黒いスーツを着て、手にはブリーフケースを下げていた。明らかに怪しいこの赤ちゃんに翻弄されるティムだったが、やがてボス・ベイビーは、赤ちゃんへの愛情の比率が子犬に傾いている世界的状況を危惧し、もうすぐ発表される新種の子犬の情報をつかむべく差し向けられた産業スパイだということを知る。両親の愛情を取り戻したいティムと、さっさと仕事をまっとうして会社に戻りたいボス・ベイビーの利害が一致。2人は協力することになるのだが…。

見た目は赤ちゃん、中身はおっさんというボス・ベイビーの活躍を描くアニメーション「ボス・ベイビー」。映画冒頭に、往年のミュージカル映画「トップ・ハット」でフレッド・アステアが歌う「チーク・トゥ・チーク(頬よせて)」の甘いメロディーが流れ、一気にノスタルジックな世界へと誘い込まれる。だがストーリーはかなり辛辣かつ突飛な設定なのだ。そもそも、赤ちゃんには適正があって、ニコニコ笑う無邪気な赤ちゃんは普通の家庭に送られるが、優れた知能と冷静な判断力を持つ赤ちゃんは、ベイビー株式会社で働くことになる。ボス・ベイビーは、そんなベイビー株式会社の中間管理職なのだ。上司から無理難題を押し付けられ、出来の悪い(でも憎めない)部下の世話に明け暮れる。可愛い見た目とオッサンの中身というこのギャップがかなりイイ感じで笑いを誘う。もちろんティムとの丁々発止のやり取りも楽しい。ベイビー株式会社の内部も、しっかりと作り込まれて見事だ。

ストーリーは、秘密を共有するボス・ベイビーとティムのバディ・ムービーのようなスタイルだが、赤ちゃんへの愛情を脅かす新種の子犬の秘密や、ティムの両親まで巻き込んだ陰謀など、サスペンス要素もたっぷり。気になるのは、ティムの妄想をベースにした大冒険のアクションシーンが、ストーリーに上手くフィットしていない点だ。派手なアクションシーンも、取ってつけたような感じが残るのが惜しい。弟に愛情を横取りされるのでは? 人間は赤ん坊より子犬を愛するのでは? 愛はすべての人にいきわたるほどはないと思い込んでいたティムとボス・ベイビーだが、やがては本物の愛は尽きることなどないという、ストレートで王道な真理へとたどり着く。ギャグはシニカルだし、サラリーマンの悲哀を感じさせる設定は明らかに大人向け。子どもの目から見たら、世界はどう映るのかを知る意味でも、大人に見てもらいたいアニメーションだ。
【60点】
(原題「THE BOSS BABY」)
(アメリカ/トム・マクグラス監督/(声)アレック・ボールドウィン、マイルズ・バクシ、ジミー・キンメル、他)
(ギャップ萌え度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。