韓国大統領:「不幸な国民」の後ろ姿は見えるか

長谷川 良

韓国紙中央日報(日本語版)は23日、社説で第17代大統領だった李明博元大統領の逮捕について論評していた。そして最後に、「法を守ると宣誓した大統領が退任後に拘置所へ向かう悲劇が繰り返されている。韓国社会もいつまでこのような『不幸な大統領』たちの後ろ姿を見守るべきか考えなければならない」といつもの嘆き節で記事を閉じた。

▲ベトナムの革命指導者ホー・チ・ミンの霊廟前で祈祷を捧げる文大統領(2018年3月23日、ベトナムのハノイで 韓国大統領府公式サイトから)

ソウルの刑務所には朴槿恵前大統領が収監中だ。それに贈収賄などの容疑で李明博元大統領が加わり、2人の元大統領経験者が同時に収監されるという異常な状況となった。1995年に全斗煥、盧泰愚元大統領が同時に収監されたことがあったが、23年ぶりにその再現となる。ちなみに、文在寅大統領の政治の恩師、盧武鉉元大統領は不正資金疑惑で検察の取り調べ直後に自殺している。

当方は逮捕された韓国の大統領経験者の後ろ姿を見ていないので何も言えないが、その堕ちた大統領を選出したのはやはり主権者の国民だ。国民の人を見る眼識不足が「不幸な大統領」を生み出してきたという事実はやはり少々きついが、忘れてはならないだろう。ただし、「不幸な大統領」の後ろ姿はTVのニュース番組で見ても、その「不幸な大統領」を選んだ「不幸な国民」の後ろ姿は通常見えない。
ひょっとしたら、国民は大統領職を一種の消耗品のように扱い、期限が過ぎたら、あっさりと切り捨てるか、任期中の落ち度への報復として収監することでカタルシスを感じているのだろうか。

“国民全てが社長を目指す”社会と言われるが、全員がトップになることはできない。必ず、指導者が必要となる。その指導者の選出プロセスが韓国では正常に機能していない。これは大国の傀儡国家に甘んじてきた歴史が長かった韓民族の不幸ともいえるだろう。

韓国で民主主義制度が定着して長くない。地域の権力者と利権の関わりもあるだろう。氏族圏で一人でも社長が生まれるとその成功者の周囲に氏族関係者が集まり、恩恵を分かち合う。歴代大統領は縁故主義の犠牲となるケースが絶えない。

韓国の大統領は5年間の単任制だが、文大統領は任期を4年へと1年間短縮する代わりに2期までできる憲法改正案を検討中だ。再選可能となれば、2期目を目指す大統領は主権者の国民の意向に耳に傾けざるを得なくなるかもしれない。その意味で、任期4年、2期の改正案は一つの試みと評価したい。

ちなみに、文在寅大統領は22日、国賓訪問先のベトナム・ハノイで現地在住の韓国人を前に、「韓国は現在、重大な転換点を控えており、それは巨大な水の流れを変える歴史的な瞬間になる。朝鮮半島の非核化と恒久的な平和、国の軸を新しくする改憲もしっかりと成し遂げる」(聯合ニュース日本語版)と述べ、大統領任期の延長にも意欲を示している。

米国の大統領職は最長2期、8年間だが、任期を終えたロナルド・レーガン大統領(任期1981~89年)は「どうして3期出来ないのか」と嘆いたという話はよく知られている。国民の支持もあった。一方、ジミー・カーター大統領(任期1977~81年)は現職中、ソ連共産党政権の狙いを理解できず外交的に失策を繰り返したが、大統領職を終えた後、世界の紛争地の和平仲介に努力し、現職時代よりその政治活動は評価された珍しい米大統領だ。

ところで“韓国版レーガン大統領”が出現するだろうか。“韓国版カーター大統領”は登場するだろうか。「不幸な大統領」の後ろ姿を見ず、自分たちが選出した大統領に誇りを感じ、もっと仕事をしてほしいと感じる時は到来するだろうか。「不幸な国民」の背中を慰労する指導者が出てきたら、韓国は変わるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。