【映画評】レッド・スパロー

渡 まち子

© 2018Twentieth Century Fox Film Corporation

怪我のためにボリショイ・バレエ団でのバレリーナの夢を絶たれたドミニカは、病気の母の治療費のため、叔父のすすめでロシアの諜報機関の訓練施設を訪れる。そこは肉体を武器にするハニートラップと心理操作を専門にしたスパイ、別名スパローの養成機関だった。その美貌と明晰な頭脳を武器に、ドミニカは望まないながらも一流のスパローとなっていく。彼女の最初のミッションは、アメリカのCIA局員ナッシュに近づき、ロシア政府内にひそむスパイの名を聞き出すこと。ブダペストで出会った二人は、やがて惹かれあうが、ロシアと米国両方の危険な駆け引きに巻き込まれ、ドミニカは想像を超える運命に巻き込まれていく…。

肉体と美貌、心理操作で情報を盗む女スパイの危険な運命を描くスパイ・サスペンス「レッド・スパロー」。原作は、元CIAエージェントの作家、ジェイソン・マシューズの小説だ。若きオスカー女優のジェニファー・ローレンスが、ヌードも辞さない体当たりの演技を披露していることでも話題のセクシーなサスペンスで、二転三転するストーリーや、思いがけない敵の存在などにハラハラさせられる。だが、見終わって印象に残ったのは、人間性が欠落した国家のシステムの中で、もがきながら生き抜くヒロインの強い意志だ。ハニートラップ専門のスパイ養成学校の描写や、残酷な拷問シーンなどで、女性が受けるパワハラ、セクハラという視点が生かされ、図らずもタイムリーな作品になっている。

© 2018Twentieth Century Fox Film Corporation

ジェニファー・ローレンスは、タフでセクシー、最終的には自分を陥れた相手にしっかりと償わせる策略家の女スパイを熱演して絶妙だ。国家に絶対的な忠誠を誓う女教官を、かつて「愛の嵐」で究極の愛を体現したシャーロット・ランプリング、バレリーナ時代のドミニカの相手役を天才ダンサーのセルゲイ・ポルーニンが務めるなど、何気なく豪華キャストを配しているのも見所。それにしてもハニートラップ専門のスパイとは恐れ入るが、ソ連時代には実在した国家諜報機関だそう。今も昔もロシアという国は底知れない。そんな伏魔殿のような国で、サバイバルする美しき女スパイ。なかなか興味をそそるスパイ映画だ。
【60点】
(原題「RED SPARROW」)
(アメリカ/フランシス・ローレンス監督/ジェニファー・ローレンス、ジョエル・エドガートン、シャーロット・ランプリング、他)
(体当たり度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。