総務省放送サービス未来像会議

中村 伊知哉

放送サービスの未来像☓周波数検討会@総務省。
規制改革会議の提言に基づき、放送の未来像を見据えて、放送用周波数の有効活用を検討するものです。
多賀谷一照会長のもと、ぼくは委員として参加しています。

放送政策の議論に参加するのは通信・放送融合法制の時以来10年ぶりです。
10年ぶりに投入されるというのは、前回同様、何か危険球を投げろとされるプレッシャーを感じます。
10年前は改革・守旧両派からボッコボコにされましたんでねー。

通信・放送融合が最初に論じられたのは1992年電気通信審議会。以来26年。
注目を集めたのは2005年のライブドア―フジサンケイ、楽天―TBS。以来12年。
その後、radikoができたほかはさほどの動きはありません。

制度論には動きがありました。
2006年の「竹中懇」で法制度論となり、通信・放送融合の法制度が5年後に成立しました。
放送のハード・ソフト分離や通信・放送両用の電波免許に道が開かれました。
でもその制度を使った新ビジネスはV-lowマルチメディア放送ぐらいのもので、うねりとは言えません。

その間、地デジの整備は完成しました。
地デジは、「きれい」「べんり」「区画整理」の3つを狙ったものです。
テレビをきれいなHDにすることは達成しましたが、べんり=ITの機能はスマホとネットに持って行かれました。

そして電波の区画整理は、デジタルのUHF帯に高層ビルを建てて引っ越すことはできましたが、空いたVHF帯を更地にして高層ビルを建て、新しいテナントを入れるはずが、V-high(NOTTV)は頓挫、公共利用空間の活用もまだ見通しがつきません。

そこで今回の放送展望です。
「スマホファーストやOTTのようなビジネス構造変化をどうみるか。
All IPやAllクラウドのような欧米で論じられている技術可能性をどうみるか。
このビジネスと技術の波が不可避なのか、日本には別の道があるのか、その腹づもりで政策が変わる」
とぼくはコメントしました。

野村総研からの報告。
アメリカは放送局が同時配信・有料チャンネル化。STBでデータを活用し、個人・家庭向けに広告戦略を打っている。
イギリスはBBCや民放がテレビの共通プラットフォームを形成している。
→日本はどれもやってませんね。

三菱総研からの報告。
通信は5Gでギガbpsの時代に入る。放送の高度サービスとは何か。
→ですね。通信は成長・進化が著しい。放送は広告収入がまださほど傷んではいないが、成長戦略は描けない。これがどこまで続くか、という状況です。

東京キー局の時価総額を足し合わせると1.8兆円。昨年のNTTの営業利益は1.5兆円です。
通信会社1社の一年の利益で放送局がまるごと買える規模の違い、投資力の差があることを踏まえて戦略を描く必要があります。

法制度は手当て済みで、技術も取り入れればよい。
課題はビジネス論や経営戦略だと考えます。
それに対し物申すのは、気が引けるといいますか、立場を越えているといいますか、尻込みするのでありますが、まぁそういうことなのです。

委員から「もうネットは通信ではなく、IPはインフラとしてとらえよ」という意見がありました。同意します。
他方、IP放送の検討に当たり、IPでは難しい面があるとする技術的な反論もありました。このあたりはコスト論によって整理すべきと考えます。
リアリティーのある議論が大事。

安倍首相が放送電波の制度見直しについて発言を強め、規制改革会議も放送について議論を進める中での会議。
なにやら政治的にざわついております。
さて、どこを落とし所に据えますか。
また改めて報告します。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。