在京キー局各社の2017年度決算が出揃いました。各社が自社サイトでオープンにしている決算資料には様々な情報が載せられています。私は毎年、決算資料に載っている各社の年度平均視聴率やタイム収入、スポット収入、番組制作費などを用いて、現在のテレビ局、テレビメディアの状況を分析してきました。
大きな流れを見ると、昨年度2017年度はターニングポイントとなる年だったと言えます。2009年度以来、ずっと増加を続けていた視聴率1%当たりのCM収入がついに下落に転じたのです。
また視聴率が下がった
まず、視聴率からみてみましょう。下のグラフは、日本テレビ・テレビ朝日・TBS・テレビ東京・フジテレビの在京民放キー局5社の平均視聴率の推移です。
(グラフ①)
P帯(プライムタイム:19時〜23時)視聴率は、2005年度がピークで12.2%でした。ところが12年後の2017年度には9.1%まで下がり、下落幅は3.1ポイント、下落率は25.3%となっています。
この12年間に視聴率が上がったのは2011年度のみ。この年は3月11日に東北大震災が発生しました。この特殊要因によるものだと思われます。
それ以外の年は、全日帯(6時〜24時)、G帯(ゴールデンタイム:19時〜22時)、P帯ともずっと下がり続けています。そして2017年度も下がりました。
実は2017年度は、12月31日までの時点でG帯視聴率は前年同期よりわずか0.1ポイント低いだけ、2018年1月〜3月が前年より良ければついに下げ止まるかと注目していました。しかし結局は9.3%と前年より0.1ポイント下げたままで終わってしまいました。
P帯HUTというのは、視聴率調査対象のテレビでテレビ放送が見られている世帯の割合です。P帯HUTがP帯視聴率より高いのは、在京キー局以外の「その他」というジャンルの視聴率が加えられているためです。
「その他」とは、BSやCSなどの衛星放送やTOKYO MXやTVKなど独立系U局の視聴率です。
BS放送の視聴率上昇に陰りが
P帯HUTがP帯よりも落ち方が少ないのは、BS放送の視聴率が上昇しているためです。
特に2011年の地デジ化の前後でほとんど下がっていません。これはテレビのコントローラにBSボタンが付けられるようになり、視聴率全体がBS放送で底上げされた影響だと思われます。
しかしこの4年ほどは、BSの底上げ効果もなくなってきているようです。BS放送の視聴率は一般には公開されていないのでわかりませんが、おそらく上昇の勢いがかなり弱くなっているのではないでしょうか。
テレビ視聴率下落が底を打つのはいつになるのでしょうか。そもそも底があるのでしょうか。視聴率は底なし沼にはまり込んでしまっているのでしょうか。
不調のフジとテレ朝、好調の日テレとTBS
次のグラフはNHKを含めた在京キー局のG帯・局別視聴率の推移です。全局平均にはNHKも含まれます。
(グラフ②)
フジテレビの窮状
2005年度のダントツ1位はフジテレビの14.3%で、2位〜4位のTBS、日本テレビ、テレビ朝日は団子状態でした。
ところがフジテレビはその後急速に下がり、2017年度には7.8%、下げ幅は6.5ポイント、下落率はなんと45.5%と12年間で半分近くまで下がってしまいました。P帯視聴率での下落率は47.3%にもなっています。
特に2012年度以降の下がり方は急です。これは2011年の地デジ化の際に、新聞のテレビ欄でのフジテレビの位置が一番右端に移ってしまったことが要因の一つであることは明らかです。
もちろん他にも様々な理由があるのでしょうが、それは今回のテーマからは外れるのでまたの機会に。
悲惨ともいえる状況のフジテレビですが、わずかですが明るい兆しもあります。2017年度は下げ方が穏やかになっているのです。後で述べる制作費の削減など様々な苦境が続いているフジテレビ、この調子で視聴率が下げ止まっていくといいのですが。
日テレの一人勝ちの実情は下げ方が少ないだけ
2017年度の1位は、一人勝ちといわれている日本テレビです。しかし視聴率が上がったわけではありません。3位だった2005年度より0.3ポイント低い12.4%です。
ただ下落率は2.4%で、テレビ朝日の21.4%、TBSの22.7%、テレビ東京の19.5%、NHKの14.0%と比べると圧倒的に下げ方が小さいのです。視聴率全体が下がり続け、テレビ離れが進む中では、視聴率を下げなければ健闘しているということになります。
好調だったはずのテレ朝がTBSと並ぶ
また2017年度で注目されるのは、好調を続けていたテレビ朝日がTBSと並んだ点です。テレビ朝日は2012年度に史上初めて1位になりましたが、1位はその年だけ。その後は5年連続で下げ続けました。
TBSは2009年度まで急落した後はしぶとく下げ止まり、この8年間は現状維持を続けています。日本テレビと同じように下げないことは健闘していることになります。
もっとも全日帯ではテレ朝7.4%、TBS6.1%、P帯ではテレ朝10.0%、TBS9.8%とテレビ朝日の方がまだ上です。しかしG帯、P帯でのテレビ朝日の下降傾向は明白ですので、民放キー局の2位争いは注目です。
視聴率シェアで業界内での局の勢いが見える
テレビ業界の中での盛衰を見るには、視聴率そのものよりシェア率の方がわかりやすいので、それをグラフ化しました。全局の各年度平均視聴率を合計し、各局の視聴率が占める割合を計算したものです。
(グラフ③)
こうしてみると、視聴率の推移とは違った印象を受けます。視聴率だけだと悲惨な状況のフジテレビですが、シェアでは2010年度まではかなり頑張っています。その分、2012年度以降のシェアを失うスピードは凄まじいものです。
日本テレビは着実にシェアを増やしてまさに1強状態となっています。
TBSも2009年度の底から少しずつ這い上がり、この3年くらいは明確な上昇傾向となっており、このままいけば今年度は単独2位を狙えるところまできています。
この5年ほどは不調なテレビ朝日ですが、2017年度にはついにTBSと並びました。今年度に反転できるかが焦点です。
大健闘のテレビ東京
よく「振り返ればテレビ東京」などと揶揄されることが多いテレビ東京ですが、実はテレビ東京は大健闘しています。「視聴率を下げなければ健闘」と何度か言いましたが、この12年間のテレビ東京の視聴率下落率は、日本テレビに次ぐ2番目の少なさ。シェアもこの6年ほどは踏ん張っています。このまま少しずつでもあげていけば、どこかでフジテレビと逆転するかもしれません。
視聴率は下落だが前年比は改善
これまで見てきたように、視聴率の下落は深刻な状態です。しかし2017年度は、少しだけですが明るい要素もあります。視聴率の下がり方が減ったのです。
次のグラフは全日、G帯、P帯視聴率の前年比の推移です。
(グラフ④)
前年比がプラスになった(視聴率が上がった)のは、先にも書いたように2011年度だけで、それも東北大震災という特殊要因でした。それ以外は全てマイナス(前年より下落している)が続いているのですが、その中でも下げ方が少なかったのは2013年度でした。その後の3年間はまた下げ幅が年々拡大していたのですが、2017年度は一気に縮小しました。
この11年間では、全日帯、G帯では最も小さな下げ幅、P帯でも2番目の小ささです。
もしかすると徐々に下落率が小さくなりどこかで下げ止まるかもしれないと期待する業界関係者もいるでしょう。
ですが、今の全体状況を見れば楽観は禁物です。
地上波テレビは、ビデオ録画機やテレビゲーム機が登場したりBS放送やCS放送が開始されたりするたびに、危機だ、終わりだと言われましたがしぶとく生き残ってきました。
しかし今回のインターネットとデバイスの破壊的な革命はこれまでとは全く違います。
テレビ局のライバルは同業他社だけではなく、SNSや動画やゲームなどテレビの外側にも広がっています。
さらに日本のテレビ局などとは比較にならないほど巨大なグローバル企業とも、可処分時間の奪い合いをしなくてはなりません。NetflixやAmazonプライムビデオ、DAZNなどネット動画サービスの巨人たちはテレビ画面をも侵略し、その侵攻速度はますます加速しています。。
確かにテレビ広告費市場は1兆8000億円の水準を維持しています。しかし2020年にはインターネット広告費に逆転されるといわれています。早ければ来年、2019年にも逆転するかもしれません。
当てのない視聴率の下げ止まりに期待していては、テレビ放送の未来はありません。10年後にはG帯視聴率が5%程度になってしまうかもしれないというほどの危機感を持たないと、テレビ局は変化の対応に失敗するでしょう。
すでに危険な兆候はキー局のCM収入にも現れています。次回はそのあたりを見ていきます。
編集部より:この記事は、あやぶろ編集長、氏家夏彦氏(元TBS関連会社社長、電通総研フェロー)の2018年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はあやぶろをご覧ください。