先日情報が公開されました。既にぼくが報じたように、車体は三菱重工の重回収車からMANの8x8に変更になっております。これは実用性の面では評価すべき点でしょう。また主砲は99式のものを流用したので、さほどコストは掛かっていないでしょう。
問題はこれが本当に現状必要なのか。カエサルのようなこの種の簡易型の自走砲は世界に多数ありますが、果たしてそれらと比較しての運用力はどうなのか?
現有の牽引式りゅう弾砲(FH-70)の減勢に対応するため
そもそもこれ、嘘でしょう。ロクに射撃もしていないので、砲身はピカピカで新品同様です。何しろ米国ヤキマで最大射程で撃ち始めたのは最近だし、一回に二門程度です。へたってきたのはスバル製の補助動力装置ぐらいですよ。
で、その補助動力装置はイタリアのメーカーがより優れたディーゼルのものを開発しており、これに換装すれば宜しい。こういうあからさまな嘘を堂々と掲載するのは納税者を謀る行為です。
確かに牽引式のFH70の展開能力は悪く、また射程も短い。要員の数も9名と多い。
それは事実です。ですが大規模部隊が上陸してることは想定しておらず、主たる脅威はゲリラコマンドウ、島嶼防衛です。ゲリコマであればFH-70で問題ないわけです。射程も長射程の砲弾を採用するばかなり頑張れます。ゲリコマには必要無いけど精密誘導弾は必要でしょう。果たして精密誘導弾は導入するのか?
ゲリコマ重要といいつつ、最近まで機甲戦闘を前提にした99式を漫然と調達しきたのも如何なものか、でしょう。
また、この車体だとC-130での空輸は無理でしょう。であれば、島嶼防衛でもどうなの?という話になります。
島嶼防衛ならばM777のような軽量な砲、あるいはそれを元にしたポーティシステムみたいなものが有用でしょう。
ぶっちゃけた話、FH70の砲を流用して、6輪ないし軽量の8輪のトラックに搭載し、C-130で輸送できるものを開発たほうがまだ良かったんじゃないでしょうかね。99式の調達も中止して。現大綱では火砲が300門となっておりますが、その約半分が99式です。これを用途廃止とはいかない。で60輌程度がMLRSです(これの近代化、あるいは代用は必要だと思います)。であれば新型自走榴弾砲は90~100輌も必要無いことになります。
率直に申し上げてFH70のクルー9名を5名に減らすことができれば、4×100=400名の隊員は削減できますが、ベネフィットはこれだけでしょう。
さて長射程を活かすためにはUAVや観測ヘリなどの観測手段が必要です。またC4IRを活かすネットワークシステムが必要です。
ところがFFOSは距離が短く、FFRSはFFOS同様に信頼性が低いことが大震災で露呈し、これをぼくが報じたこともあって調達が中止となっています。そして偵察ヘリのOH-1は3年以上飛行停止で、全機が飛べるようになるのは早くても10年は先です。
OH-1で更新するはずだった、OH-6の更新プランも無く、OH-6は減衰していっている。いったいどうすんでしょうね?
しかもC4IRですが、国産の砲兵ネットワークシステムはお高いので遅々としてすすまず、基幹となる無線機のコータムはつながずネットワーク化はお寒い限りです。さらに敵を観測し、火力をコーディネートする前方統合誘導チームは水陸両用機動団で導入がやっと始まったばかり。いったいどこの最貧国の貧乏軍隊だ、という有様です。
つまり新型自走榴弾砲が導入されても目が見えず、耳が聞こえないボクサーみたいなものです。
実際問題として日本製鋼所に仕事をふるためだけの装備となるでしょう。
それでも新型自走榴弾砲を導入するのであればFH-70はまだ使えるのだから、これをリファブリッシュして販売する、あるいはモスボールも検討すべでしょう。
それが納税者に対する最低限の責任を果たすということです。
またゲリコマを主眼とするのあれば特科に運用が移った120ミリ迫撃砲の自走化のほうが優先順位は高いでしょう。
■本日の市ヶ谷の噂■
新規参入企業に対する支払い渋りの嫌がらせについて、会計監査院が調査をする意向との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年6月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。