就業規則とは、労働者の就業上遵守すべき規律や労働条件に関する細目を、労基法に基づいて定めた規則のこと。しかし、未だに就業規則を無視した会社が多い。「就業規則を社員に見せたことなど無い」という会社も少なくない。
今回は、『ひとりでできる 必要なことがパッとわかる 就業規則が全部できる本』(ソーテック社)を紹介したい。著者は、特定社会保険労務士の菊地加奈子さん。厚生労働省『中央育休復帰プランナー』として、中小企業の育休取得・復帰を促進するために全国から選ばれた30名の社労士・中小企業診断士等を取りまとめる立場にある。
新しい就業規則のあり方とは
菊地さんは、就業規則をしっかり整備しておくことが会社も円満、社員も円満な会社をつくるコツだと解説する。望んだ人材が集まり、定着してくれることが、強い会社をつくる最大の秘訣であり、その根底にあるのが「就業規則」であると。
「最近は多種で柔軟な働き方が求められています。『良い会社』に見えても、1度トラブルが起きたら雪崩のように影響が波及していくような、そんな穴だらけのルールでは本当に働きやすい会社とはいえません。多種多様な働き方があっても公正な取り扱いがあること。ライフステージの波にもうまくなじむ制度であることが重要です。」(菊地さん)
「一方で、従業員のニーズに少しでも応えようとしたり、優秀な人材を確保するために、個別対応、複雑なルールをどんどん増やしていってしまった結果、結局ルールが形骸化し、まったく意味のないものになってしまっているケースも多く見受けられます。」(同)
各々が働きやすい環境をつくるためには、適度なバランスが必要になる。どんな柔軟な働き方であっても就業規則のベースには法律·制度の解釈が存在する。
「いわゆるブラック企業と呼ばれるような企業とは真逆の、『良い会社をつくりたい』という思いを持った経営者の方々であってもぶつかる壁を見てきました。本当にいい企業をつくっていくためには『リスクを知ること』『リスクを知ったうえで対応策を把握しておくこと』が重要であると強く感じるようになりました。」(菊地さん)
「従業員の目を引くような社内制度を考えるだけでなく、ベースとなる法律をしっかり守り、正しい知識を持って労務管理をすることが実は1番の働き方改革への近道であることを知っていただけたら幸いです。そして就業規則がもっと身近に、もっと多くの人たちに手に取ってもらえるものになってほしいと願っています。」(同)
ブラックな会社でよくある事例
「社員に就業規則を見せてはいけない!」。以前、私が勤務していたシンクタンクがこのパターンだった。転職して部門に配属された際、「就業規則がほしい」と上司に話した。
尾藤:就業規則をもらえますか?
上司:人事部にはあるようだけどね。実はオレも見たことがないんだ。
尾藤:では、人事部に確認します。
――その後、人事部へ――
尾藤:就業規則をもらえますか?
人事:社員に渡すことはしていない。
尾藤:書面を労働者に交付してください。
人事:君なに言ってるの?まさか、労働組合をつくろうなんて考えてないよね?
尾藤:何を言われているのか、意味がよくわかりません。
人事:いまから、労働組合を設立しないという誓約書にサインしたまえ!
尾藤:ハァ?つくる気は、さらさらないですが、この誓約書は違法ですよ。
人事:黙りたまえ!試用期間中にクビにだってできるんだぞ!
この会社は、業界でも大手の独立系シンクタンク。いま考えれば、異常な会社だった。過去に着服した社員がいたとのことで、会社宛に送られてきた社員の郵送物はすべて開封された。人事部のスタッフが楽しそうに開封していた光景は不気味だった。
文句を言おうものなら処分された。有給・代休消化もできない。熱があるときは、会社に出勤して上司の目の前で体温計を計るのがルールだった。違法なことに巻き込まれないためにも、労働者は労基法に詳しくなったほうがいい。
就業規則を有効なものとするには、労働者への周知が必要になる。周知がなければ、就業規則は法的効果が認められず違法になる。この点は最高裁判決として示され、労働契約法第7条が規定されている。そして、合理的な労働条件・労働者への周知という要件を満たした場合には、就業規則に法的効果が生じるとされている。
就業規則は社員が周知すべきもの
労働契約法第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
周知方法としては、第52条の2に基づいて3つの方法が提示されている。
(1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
(2)書面を労働者に交付すること。
(3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
スポーツにルールがあるように、会社のルール(就業規則)がわからなければ、労働者は適切な組織行動をとることはできない。本書は制度面とリスク対応が記載されているのでわかりやすい。中小・零細企業ならこれ一冊で充分と思えるほど内容が充実している。
尾藤克之
コラムニスト