「マケドニア国名呼称問題」解決近し

旧ユーゴスラビア連邦のマケドニア共和国と隣国ギリシャの間で25年間続いてきた「マケドニア国名呼称」問題がようやく解決する見通しが出てきた。マケドニアのゾラン・ザエフ首相によると、「近日中に、マケドニアの新しい国名に関する合意協定が発表される」という。ただし、マケドニアとギリシャ両国内には民族主義的勢力が活発な動きを見せているだけに、「マケドニア国名呼称」問題が実際に平和解決するまでには紆余曲折が予想される。

▲マケドニアの首都スコピエ市のバザー マケドニア政府観光局公式サイトから

マケドニアは1991年、旧ユーゴスラビア連邦から独立、アレキサンダー大王の古代マケドニアに倣って国名を「マケドニア共和国」とした。ギリシャ国内に同名の地域があることから、ギリシャ側から「マケドニアは領土併合の野心を持っている」という懸念が飛び出し、両国間で「国名呼称」問題が表面化した。

マケドニアは93年、「マケドニア旧ユーゴ共和国」の国名で国連に加盟したが、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟を願うマケドニアに対し、ギリシャ側は国名呼称の変更を要求、それに応じない限り、加盟に対し拒否権を行使すると警告してきた。そのため、マケドニアはこれまでNATO、EUに加盟できずにきた。

国名呼称問題で動きが出てきたのは、マケドニアで10年間余り政権を握ってきた中道右派「内部マケドニア革命組織・国家統一民主党」の二コラ・グルエフスキ、エミル・ディミトリエフ政権に代わり、昨年5月、ザエフ左派政権(「マケドニア社会民主同盟」)が発足してからだ。

マケドニアの西欧統合プロセスを阻止するギリシャに対し、ザエフ政権はNATO加盟、EU加盟を早期実現させることを最優先課題として、ギリシャに対し国名呼称の変更要求に応じる意向を明らかにしてきた。換言すれば、両国間で「国名呼称の変更」と「NATO・EU加盟の妨害中止」の取引が行われたというわけだ。

ザエフ首相とギリシャのアレクシス・ツィプラス首相は「マケドニア国名呼称」問題を早期解決したい意向だが、両国とも国内に愛国主義勢力が強いため、反発が予想される。マケドニアでは野党「内部マケドニア革命組織・国家統一民主党」やジョルゲ・イバノフ大統領らが既にギリシャとの合意に反対する動きを見せている。一方、ギリシャでは「新国名にマケドニアという呼称があれば絶対に受け入れられない」という声が聞かれる。同国では今年2月4日、テサロニケで約14万人がツィプラス政権の妥協に反対するデモ集会が開かれたばかりだ。彼らは口々に「マケドニアという名称は永遠にギリシャのものだ」と叫んだという。

ところで、ギリシャ側はマケドニアの新しい国名は国際社会向けだけではなく、全ての分野に適応すべきだと主張している。そうなれば、マケドニアは憲法を改正しなければならない。例えば、「公用語はマケドニア語」と憲法で明記されているから、それを修正しなければならない、といった具合だ。

マケドニアの場合、新しい国名が議会で承認されれば、今年9月か10月に国名呼称変更の是非を問う国民投票を実施する予定だ。一方、ギリシャ側はマケドニアのNATO加盟申請を承認し、拒否権を撤回。それを受け、マケドニアは7月11日に開催予定のNATO首脳会談に招かれることになる。

ザエフ首相はこの秋の国民投票を有利に展開させるために6月末のEU首脳会談でマケドニア加盟の交渉日程が明らかになることを期待しているが、フランスとオランダ両国はマケドニアの早期加盟交渉には難色を示している。マケドニアの西欧統合プロセスはザエフ首相の計画通りにはいかないわけだ。

参考までに、ロシアと中国がバルカンでの影響力を拡大するためマケドニアに接近してきた、という情報が流れている。マケドニアのNATO早期加盟は欧州の安全問題の観点からもこれまで以上に重要、と受け取られ始めた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。