プーチン氏「米韓軍事演習の中止」を

長谷川 良

ロシアのプーチン大統領が5日、オーストリアのウィーンを公式訪問し、バン・デア・ベレン大統領、クルツ首相らオーストリア政府首脳たちの歓迎を受けた。プーチン大統領にとって4期目の大統領就任後初の外国訪問だ。

▲オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応えるプーチン大統領(2018年6月4日夜、放映中継から)

それに先立ち、プーチン大統領はモスクワでオーストリア国営放送(ORF)との単独インタビューに応じた。同会見は4日夜(現地時間)、オーストリアで放映された。プーチン大統領が外国メディアにインタビューに応じるのは珍しい。欧州とトランプ米政権が貿易問題で対立が表面化している時であり、米国離脱後の「イラン核合意」の行方、シリア内戦問題など多くの難問にロシアが関わっているだけに、プーチン大統領のコメントに注目が集まった。以下、約52分間のインタビュー内容をまとめた。

プーチン氏が4期目就任初の外国訪問先にオーストリアを選んだ背景について、英国で3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が暗殺未遂事件に遭遇し、欧米諸国はロシアの関与と判断し、ロシア人外交官の追放制裁に出たが、オーストリアはロシア外交官の追放処分に従わなかったことから、「ロシア側からの報酬」説が流れている。それに対し、プーチン氏は笑いながら、「オーストリアはそのような報酬を必要とする国ではない。わが国とオーストリアは常に良好関係を維持してきた」と指摘した。

ロシアは難民収容問題の対応で分裂してきた欧州連合(EU)の加盟国間の亀裂を深める狙いがあるのではないか、という質問に対しては、「ロシアは欧州の統合を支持しているし、その繁栄はロシアにとってもいいことだ」と説明。ロシアが欧州統合に懐疑的なオーストリアの自由党など欧州の極右政党との関係を強めていることに対しは、「国家間の関係が進めば、次は政党間の交流が広がっていくのは当然」と述べるに留めた。

ロシアが米国大統領選や他の欧州の選挙にハッカーなどを駆使して影響を行使している疑いについて、「政府が関与することは考えられない」と一蹴。トランプ米大統領との首脳会談がこれまで実現していないことに対しは、「トランプ氏とは様々な国際会議で会って話している、最近も軍事拡大の危険を阻止するために電話協議をしたばかりだ。ただし、米国内では、私とトランプ氏が会談することを望まない人々もいる」と強調した。

シンガポールで今月12日開催される米朝首脳会談については、「朝鮮半島の安定はロシアにとっても重要だ。北は先月25日、北東部豊渓里にある核実験場の坑道を爆破したが、そこからロシア国境まで190キロしか離れていない。北の非核化は重要だが、一方通行であってはならない。朝鮮半島の安定を考える場合、関係国の対応も必要だ。軍事活動や(米韓)軍事演習は緊張緩和にとってマイナスだ」と語った。

以下は一問一答形式でまとめる。

――マレーシア航空機MH17便が2014年、東ウクライナ上空でミサイルで撃ち落とされ、298人の乗客らが犠牲となった事件で、オランダの国際調査委員会は先日、ミサイルはロシア軍によって発射されたという調査結果を公表した。

「国際調査委員会にはロシア軍の専門家が参加していない。調査結果は客観性に欠けている。ウクライナ軍も反政府軍側もいずれもロシア製の武器を使用している。ミサイルがロシア製だからといってロシア軍が発射したということにはならない。マレーシア当局は先日、ロシアは今回の事件には関与していないと証言している」

――ウクライナのクリミア半島のロシア併合問題について。

「ウクライナは憲法に反して武器で権力を掌握した勢力によって支配されているのだ。クリミア半島に駐留するロシア軍は半島住民を守る義務を負っている。その上、クリミア半島に住む住民の多くがロシア系であり、ロシア併合は彼らの自発的な願いだった。ロシアへの併合を問う選挙もウクライナの憲法に基づいて実施された」

――ロシアはシリアのアサド政権を軍事支援しているが、アサド政権が化学兵器を使用した件で調査の延長を求めた国連の調査委員会の要請にロシアは拒否権を行使した。

「アサド政権が化学兵器を使用したことは実証されていない。客観的に調査すべきだ。例えば、ダマスカス近郊の東グータ地区で4月7日、シリア政府軍が化学兵器を使用し、多数の市民に犠牲が出たとして、米英仏の3カ国の有志連合国軍が4月14日、シリア国内の3カ所の化学兵器製造・保管関連施設への軍事攻撃をした。よく考えてほしい。シリア政府軍はその地域を解放したばかりだ。その地域に化学兵器を使用する意味があるだろうか。西側のプロパガンダだ」

――プーチン氏は2012年の大統領選では2020年までに国民の生活水準を飛躍的に改善したいと約束したが、ロシアの国民経済は停滞している。

「ロシアはクリミア半島の併合などで欧米諸国の制裁下にあるが、ロシア経済の停滞は制裁の結果ではない。原油価格が落ちたために国家予算を組むのが難しくなった。その結果、ロシア国民の懐も厳しくなったわけだ。わが国のマクロ経済は安定している。2000年以来、貧困層の国民は半減した。国民経済は今後、回復傾向が出てくるはずだ」

――プーチン政権は2000年に始まった。3期大統領を務めてきた。そして4期目がスタートしたばかりだ。4期目の任期(6年間)が終われば2024年だ。24年間の長期政権となる。ロシアは次第に民主国家から権威主義的な政治体制に変わってきたのではないか。

「自分はわが国の憲法に従ってきたし、今後も同じだ。ロシアは民主国家であり、国は法に基づいて運営されている」

――中国共産党が国家主席の任期制限を撤廃し、習近平国家主席の終身制の道を開いたが、ロシアも同じ道を行くのではないか。

「私は憶測にはコメントしない。ロシア大統領としてそれは相応しいことではない」


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。