「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」は、孫子の兵法で最も有名な言葉だ。
我々弁護士も、法廷で相手と対峙する前に「どのような相手か?」「どのような戦略で来るのか?」などと予想するのが常だ。
ところで、就活生の諸君は、人事部長の立場になって考えたことがあるだろうか?
長い歴史のある企業やメガバンクなどの人事部長になったと想定し、今年の採用実績を役員会で報告すると考えよう。
ほとんどのサラリーマン部長は、前年実績を下回ることだけは避けたいと考える。
では、前年実績を何で判断するか?
何百人も採用する企業であれば、出身大学配分が重要な要素の一つになる。
前年、東大、京大、一橋、早稲田、慶応から、それぞれ20人前後採用していたとしよう。
ところが今年、東大ゼロ京大3人となると、よほど説得的な理由(弁解)を述べなければ人事部長としての資質が問われるはずだ。
かつて、某銀行には、コネ枠、成績枠、体力枠に三分類して採用していたという(かなり信憑性の高い)噂があった。黙っていても一流大学の学生が応募してくるので、彼らをそれぞれの枠に配分するとのことだった。
また、採用した学生が、内定後の社長面接などで奇抜なことをやらかすと、これまた人事部長の資質が問われる。
こうなると、前年実績を下回らないためには、出身大学等その企業独自の枠を外さないことと、奇抜な学生を採用しないことが無難ということになる。
もちろん、TOEIC700点以上の枠や運動部の枠などもあり、これらの枠がマトリクスのように形成されている場合が多いはずだ。
特別枠として海外の有名大学卒業者や留学経験者などもあるかもしれない。
有力政治家の息子で、米国有名大学MBAを優秀な成績で卒業した学生を採用できれば、人事部長の査定にプラス点が付くかもしれない。
このような視点から就活を考えると、各企業が求める人材像としてアピールしている(「前向きに取り組む姿勢」「斬新な発想を持った学生」などという)抽象的な表現がむなしく響く。
もっとも、若手社員の面接レベルでは「この学生と一緒に働きたい」というホンネがあることも事実だ。
ただ、「傾向と対策」として、「今年の採用実績」を役員会で報告する人事部長の立場に立ってみれば、就活戦略はより立てやすくなるはずだ。
まずは、過去の採用実績を検討して、どのような枠のマトリクスがあるのかを考える。
自分にとって最適の枠がどれかが決まれば、その枠にふさわしい態度で面接等に臨む。
会社によって自分にとって最適な枠も異なるので、各社ごとにスタンスをずらすことも必要だろう。
もちろん、採用枠は最終結果に過ぎないので、そこにたどり着くまでの面接等で相性の悪い相手に当たってしくじることは大いにある。
しかし、抽象的な会社側の掛け声だけを信じてあれこれ考えるより、(入試の過去問を分析するように)各社の過去の実績を研究する方が、はるかに有効な戦略が立てられるはずだ。
一度採用されて各部署に配属されれば、原則として人事部採用担当の責任の範囲外になる。
新入社員として伸びるか伸びないかは各部署の責任であって、原則として人事部採用担当の責任ではない。
官僚主義的大企業の採用は(多少の違いはあれども)所詮この程度のものだ。
前年度と比較してマイナス点が付かないことが第一、プラス点が付くことが第二と割り切ればいい。
もちろん、元気のいい新興企業は別だと思うが、その分「傾向と対策」が立てにくいのも事実だろう。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。