政治の側から「ポリテック(政治×テクノロジー)」を進める際の具体的施策 --- 蒔田 純

4月29日、ニコニコ超会議で小泉進次郎氏が、今後、「政治×テクノロジー」を意味する「ポリテック」を推進していくことを提唱し、話題となった(日刊スポーツドットコム2018年4月29日)。かつて議員秘書として永田町で仕事をしていた筆者も「政治は最もIT化の遅れた分野の一つ」という認識を強く持っており、テクノロジーを活用して政治を刷新すべきという主張が政治の側から出てきたことを歓迎したい。

一口に「政治×テクノロジー」と言ってもその対象となる範囲は極めて広く、考え得る施策も様々であろう。polipoli等、既に民間側から政治的成熟度の向上を目指す取り組みが出てきているが、以下では、主に政治の側からポリテックを進める際に軸になると考え得る具体的施策をいくつか挙げたい。

1. ペーパーレス化

まずは基本の基本としてのペーパーレス化である。議員会館の各議員の事務所には、国会会議録・法案資料・各種会合の案内等、毎日、膨大な量の紙の資料が届けられる。しかもそれらの多くはネット上でも閲覧可能なため、大半の人が紙ベースでは読んでおらず、殆どのものが一定期間保管された後に廃棄されているのが現状だと推察される。これを電子化して紙の資料をなくすだけでも、かなりの経費・資源の節約になるのではないか。紙の資料が必要な人がいるとしても、申請すれば入手可能とすればよく、議員全員に配布する必要は全くないだろう。

また、党の会議資料も電子化を進める余地が大きい。小泉氏は自身が委員長を務める党内の委員会で資料をfacebookにアップしてペーパーレス化を段階的に進めているとのことだが(上記日刊スポーツ記事)、これを全党的、あるいは他党も含めた永田町全体の動きにしていくべきである。党の会議資料をデータベース化して議員・秘書・党職員がどこからでもアクセスできるようにすれば、経費・資源の節約のみならず、質問作成をはじめとするあらゆる議員活動の質の向上に大いに役立つはずである。

2. ビッグデータ活用

ビッグデータの活用も当然、ポリテックの基軸となってくるだろう。政治分野におけるビッグデータ活用というと、選挙におけるPRターゲティングや有権者の動員方法という文脈で語られることが多いように感じられるが、それに加えて、今後は政策立案の際にも活用が進められねばならない。

現在でも当然、政府・自治体における政策立案にはRESAS等の利用が相当程度浸透しているだろうが、政党・議員レベルではどうだろうか。特に政府の政策に対して限られたリソースで対抗せねばならない野党において、ビッグデータは質量両面で大いに政策立案の助けになるはずである。政策とは「社会の中の困りごと」を解決・改善するための方策であり、それを作り出すには、「誰が、いつ、どこで、どのような行動をとったか」といった客観データが不可欠であろう。今ではオープンデータに取り組む自治体・企業も増加しており、政党や議員がその活用を進めることは、政治の場における議論の質を高めることにつながると考えられる。

3. AI

経済産業省は昨年、AIに国会会議録を読み込ませて国会答弁を下書きさせる実証実験を行ったとのことだが(毎日新聞2018年1月7日)、質問する側の政党・議員が同じようにAIを活用することも考え得るだろう。例えば、過去の会議録を分析し、「こういう質問をした時は政府側からこういった答弁が返ってくることが多い」ということが分かれば、それを踏まえて、質問の仕方やそれに続く質問内容を考える、ということが可能になるものと考えられる。

また、海外では既に政党がチャットボットを使って問い合わせのあった有権者に党の理念や方針を伝えたり、政策を説明したりする試みが始まっている(参照)。これは現在のところ、業務効率化や有権者の組織化が主な目的であると理解されるが、有権者側からの意見や主張をAIが読み取り、それを分析して有権者が求める政策づくりに活かす、というようなことが可能になれば、活用範囲はより広がるものと考えられる。

4. ブロックチェーン

今後、人口減少が進むと、特に地方では議会の議員のなり手不足の問題がますます深刻化してくると考えられる。この時、テクノロジーを用いた「半直接民主制」とも言うべきアプローチが有効となる可能性があり、その際に基幹的な技術となるのがブロックチェーンである(詳しくは、6月3日の筆者記事「ブロックチェーンを用いた「半直接民主制」アプローチ」参照)

またこれは、有権者が政治的な意思決定にダイレクトに関わるという上記のようなケース以外にも、政治家が政策立案や自らの意思決定の際に有権者の意見を参考にしたり、政党が党としての政策決定や党人事の選定作業の際に党員・サポーターの意見を集約したり、といった活用の仕方も考え得るだろう。

(この他、ブロックチェーンについては最近、財務省の文書改ざん問題に絡めて公文書管理への活用がよく言われるが、これに関しても喫緊の課題として検討が望まれる。)

5. クラウドファンディング・ICO

政党や政治家個人の資金調達の方法として、今後はクラウドファンディングやICOを活用することも考え得るのではないか。政党や政治家が「このような政策を実現したい」「こういった法律をつくりたい」という明確なビジョンと具体的なプロジェクトを用意し、それに賛同する有権者から出資を(ICOの場合は仮想通貨で)募ることにより、そのための活動資金を調達するのである。

クラウドファンディングやICOを行う際、最も重要なのは、人々を惹き付ける魅力あるビジョンやアイデアであり、これは政党や政治家に強く求められるものでもある。多くの人の賛同を得る政党・政治家がより多くの資源を手にするのは必然であり、そのようなモチベーションが政治全体の質を向上させるものと考えられる。政治資金規正法等、各種法令との調整は必須であろうが、民主主義の成熟を見据えた時、選択肢の一つとして考えられてもよいのではないか。

以上に挙げた施策は、すぐにでも取り組めるものから時間をかけて検討せねばならないものまで様々であるが、いずれも、政党・政治家の個別的利益のみならず、政治と民主主義全体の発展に資するものであると考えられる。政界全体で議論が盛り上がり、政治分野におけるテクノロジー活用が少しでも前に進むよう期待したい。

蒔田 純(まきた・じゅん)弘前大学教育学部 専任講師
1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策担当秘書、総務大臣秘書官、新経済連盟スタッフ等を経て現職。北海道厚沢部町地方創生アドバイザー。Mail: jun.makita.jun@gmail.com