自民党の穴見陽一衆議院議員が、同院の厚生労働委員会で「受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案」の審議中、参考人の肺がん患者に対し「いいかげんにしろ!」とヤジを飛ばした件が与野党間で話題となっています。
がん関連団体のみならずネット上でも非難の声が高まっていますが、今回の一件は私も残念に思います。そして三つの理由から、穴見議員には猛省を促したいです。
その1、関連団体理事としての自覚の欠如
ヤジが問題となって間もなく、穴見議員はみずから役員に名を連ねる「大分がん研究振興財団」の理事を辞任したと報じられました。
報道によると同財団の設立2007年(平成19年)。穴見議員は政界進出前から理事を務めているそうですが、名こそあれども実態はどうだったのかということです。
衆議院における所属委員会が厚生労働委員会とのことで、医療従事者でなくとも理事としての知見が備わっていれば、そもそもヤジに至ることは無かったでしょう。
ちなみにがん財団の事業概要には「がん予防・治療の啓発活動」も柱のひとつに掲げられています。
その2、自民党の縦割りが垣間見えてしまった
今回の穴見議員の発言に対しては野党のみならず、所属する自民党内からも非難の声が上がっています。
中でも象徴的なのが、みずからも子宮頸(けい)がんを経験した三原じゅん子参議院議員による批判です。
三原議員の当選後の歩みをみると、出馬の動機となったがん対策に対する取り組みは目をみはるものがあります。
出発点はタレント議員としての先入観を持たれることも多かったことでしょう。それでも、2010年の初当選から今年で8年。桃栗のみならず、柿も実ります。現在も参議院の厚生労働委員会に所属し、衆参の違いはあれども、同じ党内には問題意識を共有し得る同僚がいるわけです。
それにも関わらず引き起こされたヤジ発言は、実に残念でなりません。
政策そのものの共有は、もしかしたら有るのかもしれない。ただ今回の発言を鑑みると、果たして政策立案の土台となるべき「理念の共有」は党内の部会でなされていないのではないでしょうか。
その3、衆参すべての議員が学んで欲しい、ある議員の生き様
前述の三原じゅん子議員の批判はみずからががん経験者というだけでなく、参議院議員の一員としての職責に就いてからの学びからも取り組みの真剣さが伺えます。
1年前の2017年5月17日、三原議員本人も受動喫煙防止に関する委員会の中で「(がん患者は)働かなくていいんだよっ!」という心無いヤジを受けています。
言った本人は軽い気持ちでも、言われた当人は決して記憶を拭うことができない。当時もさぞかし悔しかったことでしょう。
その後、三原議員は5月30日の参議院厚生労働委員会で代表質問に立つわけですが、その中で注目に値する発言がありました。
政治がこのまま何もしなければ、これから失われる命がどれほどの数になるのか計り知れません。かつてがんを患った私にとって、守れるのに守れなかった命、声なき声を無視することはできません。受動喫煙が原因で年間15,000人が亡くなっています。この数字、過去たった1年でです。1年で政府がこれだけの数の国民の命を守れなかったということなんです。我々政治家は、日頃から有権者の声を政治に反映しようと努力しています。ですが、それは今生きている人、その人たちだけの声でいいんでしょうか。
私は、7年前に議員とさせていただいたとき、民主党の山本孝史先生の議事録を全て読まさせていただきました。私の記憶によれば、最後までたばこの政策に関して非常に心残りだというようなことを発言されていたと記憶しています。こうした死者の英知というものも引き継いでいくのが私は政治であり、過去に受動喫煙で亡くなった方たちの無念の魂というものを鎮めることもまた使命なのではないかと思っています。それがあしたを生きる子供たちの未来につながっていくのではないでしょうか。
三原議員が議事録を学んだというのは、民主党(当時)の故・山本孝史議員です。みずからも胸腺がんの患者であった山本議員は、自らの病を議場で告白し、がん対策基本法の早期成立を訴えました。原田マハさんの小説「本日は、お日柄もよく」に登場する、今川篤朗議員のモデルとされる人物です。
今回のヤジ発言の主でもある穴見議員のホームページには、お詫びのコメントが掲載されています。
言葉だけなら、誰でもできます。反省ならば猿にもできます。
掲げた詫び文が本物ならば、どうか穴見議員には、こうしたがん対策の歴史というものを学んで欲しい。心からそう願います。
現在自分たちが取り組んでいる様々な政治課題は、どこから来たのか。取り組んでいる自分たちは何者なのか。そしてどこへ行くのか。どんな先人たちが議論を戦わせて、今に至るのか。
ヤジ発言の主のみならず、その場に居合わせた議員や役人の方々、さらには衆参すべての国会議員が。
そうした政治の「積み重ね」としての歴史を学んでいただくことを強く願い、そして求める次第です。
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高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト