スペイン前国王ファン・カルロス1世にまつわるこの4-5年の断続的に発生しているスキャンダルの影響で、スペインでこのまま立憲君主制を維持すべきか、それとも共和制にすべきかという議論が起きている。特に注目されるのはつい最近の世論調査で立憲君主制への支持が50%を割ったことである。
ほぼ40年続いたフランコの独裁政治の後、ヨーロッパの歴史における王家として由緒あるブルボン家の血を引くファン・カルロス1世が1975年11月にスペイン国王として議会で承認されて、スペインは立憲君主制の道を歩むことになった。
立憲君主制を選らんだのはスペイン国民ではなく、フランコ将軍であった。そして選ばれた人物は1931年に国外に亡命したアルフォンソ13世の後継者とされた四男ではなく、その息子であるファン・カルロスであった。
民主政治に移行してからは、それまでスペインで政治活動が禁止されていた共産党や社会党も議会政治に参加したことから、国家の統一そして安定化には政治イデオロギーを超越した一つのシンボルが必要であった。その役目をファン・カルロス1世が担ったのであった。1981年2月23日に起きた軍部によるクーデターも国王の指揮の元に未遂に終わらせた。
しかし、時が経過すると共に民主政治もマンネリ化し、それまで存在していなかった反体制派が政治的に勢いを持つようになり、彼らは国民は全て平等で王家の存在はそれに反するものであると主張するようになっていた。
この主張を肯定するかのようにスペイン王家に纏わる複数のスキャンダルが起きたのである。2012年のスペインが経済的に苦しい状況にある時に、当時まだ国王であったフアン・カルロスは愛人を同伴してアフリカのボツワナで象狩りに4万ユーロ(520万円)を使って楽しんでいたことが後日発覚。
また、フアン・カルロスには常に愛人がいるという噂は絶えることがなく、国王を退位してから彼の若い頃からの女性遍歴をメディアで取り上げる頻度が多くなっていた。
更に、フアン・カルロスの次女の婿で元ハンドボール選手でスペイン代表のキャンプテンだったイニャキ・ウルダンガリンが前国王の娘婿だという地位を利用して一部の自治州にスポーツ祭典の企画を持ち込んだりして公金を横領したという事件。彼は現在アビラ市の刑務所で服役中である。そして、彼の妻で前国王の次女クリスチーナにも共犯の容疑が掛けられたが、その公判では犯行を追及すべき検事が彼女の弁護に回っていると思わせるような発言も見られ、彼女は無罪。国民の前に王家はやはり別格で優遇されているという印象を与えた。
更に、フェリペ6世国王の王妃レティシアも王妃としてふさわしくない行動が見られて国民から支持を失いつつある。王家の事情を熟知している評論家ペニャフィエル氏は「フェリペ国王がレティシア王妃と離婚しないのであれば、彼女が王家を潰すことになる」と苦言したほどである。
このような一連の出来事から王家の国民からの信頼は既に瓦解しつつある。現在、王家が唯一望んでいるのはフェリペ6世国王に関係したスキャンダルが起きないことだという。仮にフェリペ国王に纏わるスキャンダルが発生すれば、王家への信頼は一挙に失墜し、大半の国民が共和制を望むようになると見ているからである。
7月にデジタル誌『CTXT』が2848人を対象に世論調査をした結果が掲載された。それによると、56歳以上のスペイ人の間では立憲君主制支持者55%、共和制支持者41%という結果になっているが、35歳以下の若者の間では前者46%に対し後者53%となって、共和制支持者が君主制支持者を上回ったのである。また、36歳から55歳まででも前者49%に対し後者48%という数字になっている。その結果、全体から見て君主制を支持する国民は50%を割るという報告がされているのである。
またこの世論調査によると、10人中6人が君主制か共和制を選ぶ国民投票に参加したと望んでいるという。また、同様にフェリペ国王への支持者は49.9%、王位解任を望む者は47.4%という結果になっているという。
更に、個々の人物についてだと、フェリペ6世国王への支持率は10点満点で5.7点。ファン・カルロス前国王は3.2点となり、これまでのスキャンダルの種をまいた人物として当然の結果であろう。しかし、それ以上に問題なのはフェリペ国王の王妃レティシアへの支持は3.8点しかないというのは王家の存続には非常に危険である。
彼女に国民からの人気がないのは彼女の振舞いに問題があり、外見からも冷たい印象を与えているからである。彼女は元ニュースキャスターという職業柄、国民から人気を勝ち取る方法は知っているはずであるが、彼女が持っている本来のキャラクターをメディアの前に隠し続けるのは不可能だということなのであろう。
2015年3月までは政府直轄の社会調査センター(CIS)が王家の国民からの支持率について公表していたが、王家への支持率が下降して行くのを前に同年4月からその世論調査を廃止している。これはヨーロッパの他の立憲君主制を採用している国でも同様に公的機関は王家の支持率などを世論調査で調べて公表するのは避ける傾向にあるという。
フェリペ国王には二人の娘がいる。長女が王位を継承することになっているが、それが実現するか否か疑問視されるようにスペインの社会事情が急激に変化している。