我が新宿区で「市民の自由」を侵害する2つの問題 --- 藤原 家康

寄稿

残念ながら、東京都新宿区は不自由な場所となりつつある。区が市民の自由を侵害する、2つの問題が起きている。これらの問題は全国各地に波及し得るものであり、また、市民の自由という普遍的な価値に関わるものである。

表現の自由、集会の自由を侵害する公園デモ規制

規制対象となった花園西公園(新宿区サイトより:編集部)

1つ目は、デモ規制の問題である。新宿区は、区における基準を変更して、デモの出発地として使用できる公園を、4つ(柏木公園、花園西公園、西戸山公園、新宿中央公園)から、1つ(新宿中央公園のみ)とした。

この基準では、同一公園におけるデモでの使用は1日2回を限度とし、また、同一公園において先にデモの出発地としての申請がある場合、原則として3時間以上の調整時間を経なければ、次のデモの出発地としての使用は認めないこととされている。

さらに、新宿中央公園では頻繁にイベントが開催されているが、イベントがある場合はデモでの使用は通常許可されない。なお、運用上、警察は、デモの出発地として公園を指定している。

区は、基準の変更の理由として、デモ件数が増加していること(例えば、2013年度は53件、2017年度は77件)、周辺の交通制約や騒音により迷惑しているため公園周辺町会及び商店会等からデモを制限してほしい旨の要望があること、を挙げている。

しかし、この新たな基準は、憲法21条で保障された表現の自由、集会の自由を侵害するものである。

表現の自由は、市民が政治的な意思決定をするのに必要な情報を得るために不可欠なもので、民主主義の根幹をなし、憲法上優越的地位にある。そして、集会の自由は、表現の自由の一内容であり、市民が集まって表現をし、その表現内容を社会に訴えることを内容とするものであって、憲法上厚く保障される。

最高裁判例においても、集会の自由が制約できる場合は、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限定された。

周りが迷惑であるということだけでデモができないということになれば、表現の自由や集会の自由はないに等しいことになるし、また、憲法上、これらの自由を制約できるのはごく限られた場合であることにも反することになる。加えて、新基準でデモの出発地として使用できなくなった3つの公園については、個々の申請内容を全く検討することなく、いかなる事情があってもデモの出発地として使用できないとするものであって、憲法上制約が許される場合を大きく超えた過度の規制であることは明らかである。新宿区は、直ちに新基準を廃止すべきである。

プライバシー権を侵害する、警察への個人情報提供問題

2つ目は、個人情報の提供の問題である。新宿区は、65歳以上の区民の氏名、フリガナ、住所、生まれた年を記載した名簿(拒否の意思表示をした人等の分を除く)を作成し、その名簿を、区内4警察署(新宿署、四谷署、牛込署、戸塚署)に対し提供することを予定している。区は、その理由を、高齢者宅の訪問による特殊詐欺被害の根絶対策の実施としている。区は、2018年8月23日に、上記提供に関する警察との調印、及びプレスリリースを行うこととしている。

この提供は、憲法13条で保障されたプライバシー権を侵害し、また、新宿区個人情報保護条例に違反する。

まず、上記の提供は、自己の情報の提供を欲しない区民にとって、私生活に関する情報をみだりに公開されることを意味し、その区民はプライバシー権を侵害されることとなる。なお、上記の提供の拒否の意思表示をしない場合、同意はなく、それにもかかわらず当該区民の情報が警察に提供されることは不合理である。

また、本件提供は、少なくとも以下の点から、上記条例12条2項(4)の「実施機関が特に必要があると認めたとき」の要件を満たさない。

まず、そもそも、高齢者宅を戸別訪問することが特殊詐欺被害の防止にどこまでつながるかは明らかではない。なお、訪問により行われることになっているのは、注意喚起、電話機への留守番電話機能の設定、自動通話録音機の貸出であり、これらがなされても、特殊詐欺被害が防止できるとまではいえない。なお、戸別訪問を警察官が行う必要性も明らかではない。

むしろ、提供による弊害が考えられる。例えば、当該個人情報の流出のおそれが高まる。なお、警察からの個人情報の流出の例は相当数報じられている。

また、警察の訪問が、むしろ特殊詐欺被害の発生の動機となることも考えられる。例えば、犯人が警察官のふりをして、特殊詐欺を行うことも十分あり得る。加えて、警察から名簿が返却されても、当該情報が区外で利用され得ることを完全になくすことはできない。

なお、上記提供と同様の、警察への情報提供が行われている自治体は僅少であると考えられる。

このように、上記提供は、上記条例の「実施機関が特に必要があると認めた」ものに該当せず、違法である。

新宿区及び区内4警察署は、直ちに、区の警察に対する上記提供を取りやめるべきである。

藤原 家康  (ふじわら・いえやす)弁護士
1976年生まれ。2001年弁護士登録(第二東京弁護士会)。出生から現在までの間の約30年、新宿区に居住。2013年、藤原家康法律事務所を開設(事務所サイト)。