サマータイム阻止に向けた世論形成へ、3人のインフルエンサーが鍵を握ると先日書いたが、そのなかで3人目がもっとも早く動いた。渡辺恒雄氏が率いる読売新聞が19日の朝刊で慎重論に軸足を置いた社説を掲載した。
読売社説のトーンはタイトルをみれば推進派への配慮もにじませているが、今回の推進派が理由にあげているオリンピックの暑さ対策に関してはというと…。
夏時間の導入は、国民生活や経済活動への影響が大きい。国民の幅広い理解が欠かせない。
自民党内では、五輪に間に合わせるため、19年から試験実施する案も出ているが、拙速ではないだろうか。五輪対策であれば、競技時間の変更で事は足りよう。(太字は筆者)
社説全体としては慎重論ではあるが、オリンピック目的に関して言えば「拙速」と断じ実質的に反対している。騒動に火をつけた産経も社説では慎重派に後退したのは先日も書いた通りだ。そして読売は今回、朝日新聞や毎日新聞が反対側に旗幟を鮮明にしたのに比べると、そろりそろりとまさに“慎重”な感じだが、憲法問題や安全保障などで対立することの多い読売と、朝日・毎日がオリンピック目的でのサマータイム導入阻止については足並みを揃えたことになる。
近年の読売新聞で、特定テーマで論調を変更するのは珍しい。かつての読売は、環境省がサマータイムを強力に推進していた2000年代半ばの社説では、「試してみる価値はあるかも」(2004年8月4日朝刊)「一度、導入してみては」(2008年6月4日同)などと明確に推進派に回っていた。過去の経緯はともかく世情の変化を踏まえ、論調を変えたことはサマータイム反対派に追い風になろう。
読売の社説は、渡辺恒雄会長から森喜朗氏ら推進派への“転向メッセージ”と解釈してもいいだろう。安倍政権を支持することの多い、最大部数の新聞社が慎重派に回った意義は小さくはない。
さて先日の記事であげた3人目の渡辺会長が先に動いたことで、1人目の小泉進次郎氏、2人目の三木谷浩史・新経済連盟会長がどう動くか私は注目している。それとなく周辺を取材してみると、脈はあると強く感じる。4大紙が足並みをそろえたことで、この問題での2人の動きが加速するかもしれない。
なお余談だが、サマータイムに反対している有名ブロガー氏が、反対派が主流のネット世論と、新聞などの世論調査で賛成派が多いこととのギャップを「リテラシー闘争」だとして指摘していた。概ね問題意識としては同意するのだが、ただどういうわけか、先日の拙稿も取り上げられていたなかで、
いくらネットで騒いでも多くて200万人しか理解できないのです。社会に影響力がある誰かが言ったところで聞くものではない。
などと、私がネット世論に偏重した論者であるかのように言及されていたようだ。もし、そう思われているのであれば心外なことだ。
永田町では、新聞とテレビの論調しか見ていない世代が決定層の大半であることくらい、基本のキだ。もちろん、彼が言うようにシンクタンクなどが説得力のある数字などをあげていくことは必要だが、それは料理でいえば「食材」だ。食材を調理し大衆からの味の評価を決める「料理人」の存在もまた世論形成には必要だろう。世論のメカニズムはトータルでみていかなければなるまい。