非核化へ手詰まりの北朝鮮

高 永喆

Caitlin Jones/flickr:編集部

北朝鮮の非核化をめぐり楽観的な見方と悲観的な見方が交錯している。6月12日,金正恩委員長がクーデターと暗殺の危険を覚悟してシンガポールに行った目的は,命の保全と体制保証だった。結果的に,彼は命を保全し、戦争勃発の火種も一応、消し止めた。

しかし、最大の焦点となる北朝鮮の非核化をめぐる米朝交渉は一向に進展していない。北側が求める終戦宣言と米国が求める北核施設廃棄日程提出の対等交換案が出ているが,現時点で実現可能性は乏しい。

北朝鮮は9日の外務省報道官談話で、一部の米政府高官がトランプ大統領の意思に逆行して対北制裁圧迫騒動に血眼になっていると批判しつつ、米国が終戦宣言など信頼醸成を図らない限り“非核化の進展は期待できない”とけん制した。だが、現在のような米朝間の膠着状態が続けば金委員長は次第に手詰まりにならざるを得ない。

北朝鮮は現在、携帯電話が500万台普及しており、青空市場を通して外部の物と情報が大量に流入して独裁体制を脅かている。費用対効果を考えれば、米国としては金正恩体制を内部崩壊させるソフトランディングが一番有用だ。その場合、後継者には暗殺された兄•金正男の息子、金ハンソル君が登場することもあり得よう。

北朝鮮はトランプ大統領の任期が終わる2年後をにらみ時間稼ぎを狙っている。だが、非核化の停滞が長引けば、トランプ大統領は再選を狙ってむしろ対北軍事行動に踏み切る可能性がより高い。イラク戦争に踏み切ったブッシュ米大統領の支持率が急騰して再選につながった前例がある。

万が一、トランプ氏が再選出来ない場合でも、民主党出身大統領が国内世論を背負って対北軍事行動に踏み切る可能性も高い。北朝鮮建国70周年となる9月9日を前後して韓国の文在寅大統領が訪朝する予定だが、国際社会と足並みを揃えるべき時期に韓米同盟路線に逆行すると非難されている。

金委員長は命を失う危険を孕んだ冒険から抜け出すべきである。
東西ドイツは互いに戦争しなかったので統一が容易だった。だが、南北は大量殺傷戦争の深い傷跡が残っている。

従って、南北統一以前に南北平和定着の過程が必須となる。その鍵が北朝鮮の非核化である事が分かる。

(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員・北朝鮮分析官)

※本稿は『世界日報』に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。

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高 永喆
扶桑社
2018-07-01