人生の中で「簿記」を学ぶ機会はどれくらいあるのか。その機会は概ね3つに分類される。「経営学部や商学部へ進学した場合」「経理部や経営企画部に配属された場合」「税理士などの資格取得を目指した場合」など。しかし、どのような仕事に就こうとも、数字は理解できたほうがいい。数字に強いことはキャリアにおいて間違いなくプラスになる。
今回は、『世界一やさしい簿記の教科書1年生』(ソーテック社)を紹介したい。著者は、税理士の村田栄樹さん。税理士業務以外に、ライフワークとして岡山県にある摂食障害回復施設「なのはなファミリー」で簿記講座「なのはな簿記部」を主宰している。
「高い」「安い」は人それぞれ
「大将、今日もおまかせで!」。場所は都内の有名高級寿司店。値札はなく、メニューは亭主のおかませのみ。いまの季節は、氷水に浮かべたあわびの刺身を、出汁や肝だしでいただく「水貝」が旬になる。10月にはいれば「落ちハモ」が美味い。
「いつかは値札のないお寿司屋さんで、こんな感じで注文してみたいものですが、小心者の私にはハードルが高いです。それは、いくら掛かるかわからないからにほかなりません。『このネタはいくらなんだろう』。それはもうドキドキして味もわからない、そんなことになりそうです。では、こう書いてあったらどうでしょうか?」(村田さん)
「大トロ=高い、アワビ=普通、ボタンエビ=安い。これでもなかなか厳しいですよね。高い、安いの感じ方は人それぞれです。また、この高い、安いは何に対してなのかが、これだけではわかりません。目安にはなっても不安感は変わらないのです。」(同)
村田さんは、「不安感を取り除くためには、誰もが同じ基準で考えられる、最も客観的なもので表す必要がある」と主張する。それが「数字」であると。
「数字の1は、誰にとっても1です。また、100円は、誰にとっても100円です。子どもにとっての100円と、大人にとっての100円では、金額の持つ意味は、変わってくるかもしれませんが、100円は100円です。『100円って、いくらですか?』とはなりませんよね。金額の重みは違っても、100円は誰にとっても100円です。」(村田さん)
簿記ってなんで必要なの
「簿記=数字」というイメージを持っている人からすると、数字の羅列、それだけでイヤだ! となってしまうかもしれない。たしかに苦手意識をもつ人は多い。
「簿記は『お金の行動日記』です。先ほど出てきた通帳が、数字じゃなかったら困りますよね。たとえ数字であっても、『だいたい100円』とか、『ざっくり100円』とか記載されている通帳だったらイヤですよね。お金の行動日記である『簿記』は、誰もが同じ基準で考えられる、客観的な数字じゃないとダメなんです。」(村田さん)
「簿記のポイントは『数字で記録する』ことです。『あたりまえでしょ!』とツッコんだあなた!正解です。簿記はあたりまえのことをしているだけなんです。」(同)
人が動けば、そこには必ず「お金」の存在がある。私たちは、「お金」がなければ生きていけない。しかし、「お金の話は苦手」「お金の話は下品だ」という人がいる。
「毛嫌いしている人もいるかもしれませんが、生きていくうえで、これは切っても切れない話なのです。簿記を学ぶことは、お金の行動を知ることです。お金の行動がわかれば、『お金』を増やすこともできますが、逆に、お金の行動を知らなければ、『お金』が減ってしまうどころか、なくなってしまうことも考えられるのです。」(村田さん)
本書は、簿記をはじめたい人、簿記を勉強してみたいなと思っている人、何度もトライしたけどまったくわからないという人、つまり超初心者向けの1冊になる。なお、村田さんのプロフィールで紹介した、「なのはな簿記部」では、簿記3級合格率100%、簿記2級合格率80%を誇っているそうだ。あなたも簿記ができるようになるかもしれない?
尾藤克之
コラムニスト