日本衰退の原因の1つは「過剰な要求」

内藤 忍

観光地で旅館を経営している方に、一番宿泊して欲しくない顧客はどこの国の宿泊客か?と聞いたら、意外なことに複数の方が「日本人」と回答しました。

日本人宿泊客が敬遠される最大の理由は、「過剰な要求」にあります。ある温泉旅館では、露天風呂に浮かんでいた湯の花が不潔だとクレームする日本人がいたと聞きました。あるいは、部屋の中に虫が入ってきたとか、とにかく求めるレベルが細かく異常に高いのです。清掃をきちんとしても虫が後から入ってくることはあります。外国人はその辺はとても鷹揚で、風情として楽しんでいる人が多いようです。

写真ACより:編集部

また、宿泊サイトのコメント欄も日本人はネガティブなものが多く、重箱の隅をつつくような内容で評価を下げてしまう。外国人も評価はシビアなようですが、どうしたらその宿泊施設を快適に過ごせるかという前向きなコメントが多いと聞きます。

そんな求めるレベルが高いにも関わらず、日本人は一斉に休みを取るので、予約は土日やお盆、正月、ゴールデンウイークといった特定の日に集中。しかも、宿泊数も1泊か、せいぜい2日の連泊。1週間、2週間連泊するのが珍しくない外国人と比べると、正直「美味しくない客」です。

つまり日本人宿泊客は、大してお金も落とさないのに、文句ばかり言って、悪評を巻き散らず迷惑な存在になりつつあるのです(全員がそうだと言っているのではなく、一般的な傾向です)。

また、カンボジアでは日本品質にこだわり過ぎて、高コストになってしまったコンドミニアムの販売が苦戦していると聞きました。確かに、日本製のサッシや住宅設備は高品質ですが、価格も重要です。日本では高品質・高価格でも受け入れられますが、新興国のローカルから見ると「過剰な要求」で、オーバースペックになりかねません。それよりも、品質はそこそこで良いから、価格の安いものに対するニーズがまだまだ強いのです。現地の消費者の本当のニーズに気が付かないと、海外進出しても成功できません。

さらに、「過剰な要求」といえば、日本企業のリスクに対する反応も過剰といえます。リスク管理に「過剰な要求」をし、入念な事前調査を繰り返しているうちにマーケット環境が変わって、ビジネスチャンスを逃してしまう企業も多いのです。であれば、まず始めてみて、修正をかけながらスピード重視で進めた方が成功の確率は高まります。

このように、今まで美徳とされてきた日本人の職人気質の品質に対するこだわりが、今や高コストとスピード感の欠如という欠点になってしまった。それが、日本の衰退の理由の1つではないかと思うようになりました。

ミスを許さない「過剰な要求」という価値観が広がると、時間をかけても完璧になるまで仕上げるという方向になり、環境の変化やライバルとの競争についていけなくなってしまうのです。

この小さなミスさえ許さないという風潮は、最近の日本ではさらに強くなってきているように見えます。失敗はしないに越したことはありません。しかし、そのペナルティが大きすぎれば、誰もリスクを取らなくなり、それが日本の衰退に更に拍車をかけていくことになりかねません。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所、株式会社資産デザイン・ソリューションズは、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また、投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2018年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。