「不動産投資ブームの終焉」がもたらすもの

高幡 和也

銀行がアパートローンから手を引き始めている。正確にいえば、融資審査が非常に厳しくなり、さらには自粛ムードが高まっている、というところだろうか。

数年前から賃貸住宅の供給過多が指摘されていたことに加え、言うまでもなくシェアハウス運営会社スマートデイズの破綻とスルガ銀行の不適切融資が明らかになり、さらには金融庁の引き締め(監視)が厳しくなったことで一気に銀行の融資熱が冷え込んだ。

スルガ銀行東京支店(Wikipedia:編集部)

スマートデイズのように、家賃保証を行うことで「安心の不動産投資」を謳い顧客を集め、投資物件を販売する業者は少なくない。

もちろんそれ自体に問題はない。しかし、物件を購入する投資家とその物件に融資をする銀行は、この「家賃保証」という意味やその性質を十二分に理解する必要がある。

今回、スルガ銀行の不適切な融資を調査するため第三者委員会が設置され、結果的にシェアハウス以外でも不適切な融資が見つかったことで、スルガ銀行に非難の声が集まっている。

しかしここで見落としてならないのは、銀行の不正だけではなく、なぜスマートデイズの破綻が「即」シェアハウス運営の破綻に繋がる構図になったのかということだ。そこには二つの大きな問題がある。

まず第一の問題は、「家賃保証が履行されなくなったときの物件競争力」を各関係者が知っていたかどうかである。

シェアハウスに限らず、家賃保証の殆どはサブリース契約の形態をとっている。サブリースとはスマートデイズの様な事業者がオーナーから建物を借り受け、それを入居者に「また貸し」することだ。

サブリースは通常、市場価格(相場の家賃)から経費や利益分を差し引いた金額でオーナーと事業者が契約を結ぶ。つまり、ここで事業者がオーナーに支払う家賃は、当然に市場価格より低い設定になるし、そうならなければそのサブリース契約は将来的に必ず破綻する。

「健全なサブリース契約」であれば、何らかの理由でサブリースを行う事業者が倒産したり、契約の不履行があったとしても、オーナーが直に貸主となり、これまでのサブリースで得ていた同程度の賃料で入居者の募集をすれば、その家賃は必然的に市場価格よりも低い家賃設定になるはずである。

つまり、借り手にとっても、オーナーが直に貸主になった方がサブリース時より有利な条件(低い家賃)での入居が可能になるのだ。

上記のような入居募集を行っても入居希望者が現れないなら、そもそも賃貸事業の計画段階において、その物件の競争力の評価が適切ではなかった可能性が高い。

個人投資家や融資をする銀行がこの物件競争力を知らず、家賃保証の金額がそもそも相場よりも高く設定されていたりすると、「家賃保証の終了」=「賃貸事業運営の破綻」という構図になりかねない。

サブリース契約が付帯されている物件を購入する場合、慎重に検討が必要なのはその約定賃料が「適正相場」かどうかの見極めだ。つまり、その収入が得られる与信を、「サブリース契約で得られる約定賃料」を基準にするのではなく、それに依らない場合の「市場の賃料相場」を基準にしなければならないのである。

実はこれが第二の問題である「サブリース契約に対する理解度の低さ」だ。

「サブリースの最も大きなメリットは、多少市場価格より家賃が安くても安定した収入が長期に渡り得られることだ」という意見がある。

しかし、サブリースによってもたらされるオーナー側の最大のメリットは「煩雑な管理業務と募集業務からの解放」である。

以下をご確認いただきたい。

<サブリース契約をする際の主な注意点>
○多くのサブリース契約では、定期的に賃料を見直すこととなっています。
○「家賃保証」と謳われていても、入居状況の悪化や近隣の家賃相場の下落により賃料が減額する可能性があります。
○「空室保証」と謳われていても、入居者の募集時等に賃料支払の免責期間が設けられている場合があります。
○「30年一括借り上げ」と謳われていても、契約書でサブリース業者から解約することができる旨の規定がある場合は、契約期間中であっても解約される可能性があります。”
国土交通省HP「サブリース契約を検討されている方は契約後のトラブルにご注意ください!」より一部抜粋)

これは国土交通省によるサブリース契約の注意喚起だ。あまり知られていないが、国は何年も前からこの様な注意喚起を行っている。つまり、この注意喚起は、スマートデイズが破綻するずっと前からサブリース契約に関してこの様な問題が起こり続けていることを表しているのだ。

賃貸経営の素人である個人オーナーと賃貸経営のプロである管理会社が、互いに利益を見いだして締結するサブリース契約は合理的な手法といえる。しかし、その問題点については個人投資家も融資をする銀行も見落としがちなのである。

もし、これらの問題点が事前(物件購入時)にクリアになっていて、スマートデイズの破綻後もシェアハウスの運営が順調に行われていたとすれば問題の構図も変わっていたかもしれない。個人投資家や入居者、さらには融資を行った銀行、それぞれの被害も少なかったはずだ。

バブル期が終焉を迎えたときの「総量規制」のように、金融機関から資金が出なくなれば不動産投資物件は「買いたくても買えない、売りたくても売れない」という状況にならざるを得ない。金融機関が投資物件向けの融資を止める若しくは著しく減らしていくなら、これまでのような不動産投資ブームは自ずと終焉を迎えるだろう。

とはいえ、今後も投資物件市場は消滅するわけではないし、賃貸物件市場も決してなくならない。

競争力の高い物件はその需要がますます増えるだろうし、物件の差別化はさらに進むだろう。

不動産投資ブームの終焉は、競争力の高い物件がより選抜されやすくなり、それ以外の物件がより選抜されにくくなる分水嶺なのかもしれない。