ぼくが座長を務める民放連のネットデジタル会議。
今春も報告がとりまとめられ、ぼくが巻頭言を寄せました。
業界向けのコメントですが、参考まで貼り付けておきます。
なお、昨年のコメントはこちらに。
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生臭い政治の風が吹いている。放送の規制や電波制度を見直せという声を政権が上げている。本会合としても気がかりな事態だ。
昨年のレポートは、NetflixやAmazonなど米OTTの本格上陸を踏まえつつ、TVer、ソーシャル連動、ライブ配信、Vlowマルチメディア放送など各局のネット対応のリアリティーを確認した。そして私は、スマホファースト、オールIP、AI/IoTの動向に注意を傾けるべき状況に言及した。
その上で、2020Tokyo大会では、「スマホファーストや4K8Kは無論、オールIP、VR・AR、IoT・AI、それら新技術が放送との関わりに決着をつけ、日本が世界のショウケースとなるはずだ」と締めくくった。
今年のレポートには、早くもその回答が寄せられている。ウェブ上のライブ配信やCM挿入システム、radikoを軸としたハイブリッド展開、そして4K配信など、各局は地に足のついた取組を見せる。さらに、AIの放送利用、VR・ARの展開など、改めて「技術の時代」が到来したことを示している。一昔前の通信・放送融合が理念先行の第一ステージとすれば、実態を伴う2.0に突入した感がある。
しかし、この2.0を突破して新ステージにたどりつくイメージは未だ乏しい。試行錯誤がなお続く。TVはTVのままなのか、脱却するのか。放送を成長産業にする展望は得られるのか。正力松太郎さんや吉田秀雄さんを超えていけるのか。会議の場でも、そんな議論がたたかわされた。
ネットやAIの成長トレンドに放送はどう乗るのか。ITのグローバルプレイヤーとどう向き合うのか。これらは至極、経営戦略の根本イシューであり、放送人のマインドセットを自ら問う設問だ。
だが吹いてきた風はどうにもフワフワとホコリばかりを立たせている。通信・放送融合の推進という点では12年前の総務省「竹中懇」を彷彿させるが、放送法4条削除やハードソフト分離徹底といったアイディアは、放送界の取組や実態に根ざした香りがなく、唐突感が否めない。
ただ、「竹中懇」後の一世代、地デジ整備は終了し、いわゆる「融合法制」も整い、放送のデジタル時代が到来したにもかかわらず、デジタルならではのサービスやビジネスモデルは開拓途上で、利便性や成長性はスマホやネットに根こそぎ持っていかれているのが実情だ。
放送界として「対処」はしているが、これから力強く前進するという展望を描けているわけではない。吹いてきた風は、これに対する気構えを求めるシグナル、と捉えるべきではないだろうか。
改めて技術の時代。融合2.0への突入。これを追い風とし、政治の向かい風を上昇気流に活かす。いま必要なのは、その先を描くビジョンを自ら示すことではないだろうか。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。