就活生よ、したたかであれ!

「他の有名企業を断って“入ってやった”のに、どうしてこんなつまらない仕事をしなければならないんだ!」

入社早々、このような不満を漏らす新入社員が少なからずいる。その結果、入社して1週間も経たないうちに辞めてしまう人もいるそうだ。実は、私自身、旧長銀入行時、同じような気持ちになった。

「(当時の)三菱銀行も東京海上も断って“入ってやった”のに、高松くんだりに飛ばされたあげく店頭での接客や札勘とはどういうことだ!」

真剣に辞職して、学士入学で大学に戻ろうかとも考えた(実際、大手都市銀行を辞めて学士入学で大学に戻った面々が、授業料の安い当時は意外に多かった)。

ところが、勝手知らない四国の地で私生活は独身寮だったので、下手な動きをするとすぐにバレてしまう。
物理的な制約によって働き続けることになったのだが、今となってはそれで良かったと思っている。

私は大いなる誤解をしていたのだ。
就職活動をしている時は、「是非とも我が社に入社して欲しい」「君のような人材が必要なんだ」などとおだてられ、自分がどこででも通用する有能な人材だと思いっきり誤解してしまった。

実は、これらは全て会社側のリップサービスに過ぎなかったのだ。
ぶっちゃけ、私でなければならない必要性は全くなかった。

同じ学歴で同じような成績で…と条件が似ていれば、代わりの駒はいくらでもいる。
とりわけ、私は政財界の有力者等の縁故関係ゼロの田舎者なので、代わりの駒はいくらでもいる。

会社側としては、同じような条件の代わりの駒がいれば、私が入社しなくとも全く困らないのだ。

リップサービスの賞味期限は、内定もしく入社して社会人になるまでだ。
入ってしまえば、数多くの同期入社の中の一人に過ぎない。
入社早々退職してしまう昨今の若者も、当時の私と同じ気持ちを抱いたのだろう。

しかし、今の新卒一括採用の下では、一度社会に出てしまうと、リップサービスをもらえるどころか、自分が土下座しても入社させてくれないのが実情だ。

試しに、散々リップサービスをしてくれた挙げ句、自分が「お断り」した企業に、「やはり御社で雇ってもらえませんか?」と頼んでみればいい。
(人手不足に悩んでいる中堅中小企業等を除けば)ほとんどの会社から、掌を返すようにあっさりと断られるはずだ。
社会に出て何の実績もなく、しかも入社早々辞めてきた人間を採用するような企業は滅多にない。

もっとも、この点に関しては企業側にも責任がある。

全くの未知数に過ぎない学生に、いかにも「有能」であるかのような誤解を与えるリップサービスをし、真の目的は採用計画を滞りなく完結するに過ぎない。「自分の能力を過大評価したのは君の勝手な解釈だ」と言うようなものだ。

このように、就職活動は、狐と狸の化かし合いなのだ。

売り手市場でチヤホヤされた学生のほとんどが、入社早々、それまでの会社の態度との違いにギャップを感じる。
入社早々から、心沸き立つような大きな仕事を、経験値ゼロの新入社員に任されるような企業は存在しない。

就活生諸君、冷静になろう!
相手が場当たり的なリップサービスでくるなら、こちらも場当たり的なリップサービスで対応しよう。
「オワハラ」がくれば、リップサービスで上手くやり過ごして「したたか」に密かに行動を続けよう。

今の就活は、入社するまでの一種のお祭り騒ぎだと考えればいい。

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。