沖縄県那覇市長選は21日、投開票され、オール沖縄が支援する現職の城間幹子氏が、元県会議長の翁長政俊氏(推薦=自民・公明・維新・希望)に倍近い得票で圧勝。NHKなど報道各社は午後8時すぎに早々と当確を打つほどの展開だった。
選挙中に県連会長のスキャンダル報道
確定票を見ると、城間氏と翁長氏の得票率は、オール沖縄と自公の一騎打ちとなった前回の選挙戦とほぼ同じ。先の知事選の那覇市内の得票率では、自公などが推す前宜野湾市長が40%、当選した玉城デニー氏が57%だったから、知事選勝利の余勢も得てオール沖縄が再び差を広げた格好といえる。
市長選の開票からまもなく、自民党県連会長の国場幸之助衆議院議員(比例九州ブロック)は県連会長を辞職する意向を報道陣に示した。沖縄県知事選(9月30日)、豊見城市長選(10月14日)に続く、3連敗の責任をとった格好だが、沖縄の保守系ネット民などからはこのような厳しい指摘も出ている。
ここで言う「身の上の責任」について地元紙も一般紙も報じないが、那覇市長選の真っ只中に週刊文春が報じた国場氏のスキャンダル報道をさすのは明らかだ。
〈キスしたい〉自民党「魔の3回生」が人妻へ“不倫LINE”(文春オンライン)
選挙戦真っ最中にこのような報道があった背景について、政治的な憶測もあろう。しかし、国場氏は今年4月にも那覇市の繁華街で酒に酔っていたところ、観光客とトラブルを起こし、自身が骨折するというスキャンダルがすでにあった。
自民・国場氏、男性ともみ合い骨折 酒に酔い口論 沖縄:朝日新聞デジタル
そもそも、この時点で辞職していてもおかしくない話だが、周知のように自民党は2014年の知事選以降、県内の大型選挙でめっきり勝てなくなってしまった。2016年参院選では、島尻安伊子・沖縄北方相(当時)が敗れ、自民党は一時的だが、沖縄県内の選挙区選出議員がゼロになった。つまり「人材不足」が背景にあったのは確かだ。
しかしそれでも選挙中にスキャンダル報道を招くような脇の甘さがすでに露呈していたわけだから、関係者がなぜ処理を曖昧にしていたのか、これでは戦う前からスキを見せているようなものだ。地元で決める力がないのであれば、党本部から「指導」がなかったのか首をひねるばかりだ。
目に余った豊見城市長選一本化失敗の迷走
県連会長の人事でこうなのだから、豊見城市長選の擁立をめぐる迷走ぶりは同じくひどいものだった。終わった選挙に追い討ちをかけるようなことは、あまり書きたくはないが、同市長選では、保守系候補が当時現職だった前市長と、自民系市議で一本化の調整に失敗した。
あくまで単純計算だが、結果的には2人の票を足せば、オール沖縄系の新人市議に普通に勝てていただけに、「保守分裂」が最大の敗因だった。ただ、なぜ分裂したのか、その経緯については、全国では知られていないから一応触れておこう。
たしかに保守分裂選挙は、自民系勢力の権力争いでよくある話だし、新人が世代交代狙いで暴走することもままある。しかしこの豊見城市長選に関しては、前市長が、市の指名業者に対して、親族が経営する建設会社への資金援助を依頼した金銭スキャンダルが昨年春に浮上。今年6月には議会でも追及される騒ぎに発展していた(参照:沖縄タイムス)。
資金繰りに窮していた親族の会社のために「口利き」をしたことについて、市長側は支援者らの説明資料で事実関係は認めたものの、「支援していただいた業者に利益供与や便宜を働いたことはない」と否定。しかし、前市長の後援会の主だった人たちも離反し、地元の企業では「市長から借金のお願いをされたら断りにくい」「豊見城では税金以外に市長の身内の会社にもお金を貸さないと仕事ができないのか」などと不安が広がっていたようだ。
仮に、前市長がいうように利益供与がなかったとしても、行政の長として明らかに不適切な行為だったことに間違いない。当然のことながら自民党も選挙では前市長に推薦を出さず、2期目の若手市議を推薦。それでも前市長は降りることなく強行突破をはかって分裂選挙に突入。公明党が自主投票を決めたことも響き、結局、オール沖縄側に「漁夫の利」をみすみす与える結果になった。
翁長前知事の「弔いムード」だけが敗因なのか?
あくまで本土の政治事情を見てきた経験からの視点に過ぎないが、国場氏の件といい、豊見城市長選の一本化失敗といい、トラブルシューティングを主導できるリーダーや番頭として本当に力のある政治家が、自民党のいまの沖縄県連にいなくなったのではないか。翁長雄志前知事一派が自民党にいた頃、県内選挙戦の主力だったとされるが、県内の保守政界全体ににらみをきかせられる「ドン」がいないとしか思えない。そして国政選挙でも負けが込んで、強い政治家が育たないという「負のスパイラル」に陥っている。
新しい県連会長には、このほど経産副大臣の任を離れた西銘恒三郎氏(衆院沖縄4区)あたりになるのだろうか。2月の名護市長選で快勝した際も公明学会票頼みだったが、弱体化した足元の組織の立て直しが必要だろう。
一方で、参院選、知事選のような全県下の大型選挙は、組織が物を言う地上戦だけでなく広く民意をとらえる空中戦のウエートが大きい。一筋の光があるとすれば、知事選で擁立した前宜野湾市長の支持率がデニー玉城氏を上回った10代、20代の若者層だ。たしかに彼らは選挙に行く世代ではないが、いずれは地域社会の未来を担う。
ただ、彼らは旧来型の与党支持層と政策ニーズが違う部分もある。漫然とこれまで通りの選挙マーケティングでよかったのか、若者目線のアプローチを熟知している組織内の若手の意見もしっかり取り入れることだろう。
いずれにせよ、翁長前知事の「弔いムード」という特殊な「逆風」だけが敗因なのか。基地問題を正面から直視し、時には政権や党本部に対して毅然と言うべきは言う姿勢を示す。もちろん中央も現地任せにするばかりではなく、基地問題のアプローチを再考することも必要なことだ。
「イデオロギーよりアイデンティティ」を標榜する相手の訴えがこのまま浸透し続けていくことへの危機感を、関係者はいまいちど胸に抱く必要があるのではないか。沖縄県の自民党、保守勢力の再建ができるか問われている。