米国医師国家試験合格へ、日本の心臓外科医はどこまで頑張れるのか

第一章総論 USMLE受験はしんどいしお金かかるし時間もかかる

次の就職先であるワシントンD.C.の医師免許が下りるまで米国で働くことができないので(米国では州ごとに医師免許が発行される)、日本に一時帰国しています。前回の記事でUSMLE(米国医師国家試験)について少し触れたのと、たまたま今いる旭川医科大学でUSMLE勉強会なるもののレクチャーを行う機会があったのと、USMLEのことを語る人ってなんかかっこいいなと思ったので、今回はUSMLEについて書こうと思います。

USMLEは米国で医師をするために必要な、日本で言うところのいわゆる国試的なものです。日本の国試は医学部6年の最後に皆が同時期に受けるテストで、禁忌問題とか含まれていたりして「あれ禁忌問題だったよねー」とか「やっべー禁忌間違ったぜー」とか言って謎の盛り上がりをするやつですが、USMLEは少し違います。

USMLEは4つのパートSTEP1・2CK(Clinical Knowledge)・2CS (Clinical Skills)・3から成り、それぞれいつ・どこで・どの順番で受けてもよく、Step1と2CKは日本でも受験が可能です。Step2CSと3はアメリカ国内でしか受験できないのですが、Step3はハワイ・グアムなど比較的日本に近くかつハッピーな雰囲気なところでも受けることができます。

僕も「やっぱりハワイがいいよねー」と思い、Step3はハワイで受験しましたが、試験後1人で過ごすハワイは想像以上に寂しいものでした。全ての試験に合格すると(実際にはStep1・2CK・2CS)、米国で医師として働くことが可能になります。僕のように途中からのフェロー(非正規フェロー)として留学を考えている人は、Step3まで受けておいた方がいいと言われています。

肝心の試験内容ですが、基本は制限時間内に選択問題をひたすら解いていくもので、ほぼ1日中問題を解き続けます。かなりの苦痛です。英語を早く読む力、問題を早く解く力、何よりその苦痛に耐え得る精神力を試されているような気がします。次章で詳しく書いていきますが、STEP2CSのみ趣が違って、日本の国試にはない医療面接形式のテストになっています。もちろんこれにも受かるコツはあるのですが、英語が話せない・聴けない僕達にとってはかなりの強敵であることは間違いありません。

USMLEに受かるためにはやはり勉強することが必須です。感覚的には勉強(苦行)を続けるだけの気合いが必要でこれが最も難しいのですが、その他、実質的には「お金」と「時間」が必要です。

「お金」は教科書やネット問題集の費用が数10万円、受験費が1試験当たり10万円くらいずつかかり計4回分、アメリカに最低でも2回は渡航しなくてはならないのでその渡航費、それら諸々含め僕の場合は全部で130万円+αくらいかかりました。USMLE受かったらなんかかっこよくなーい?、くらいのテンションで手をつけるにはやや大きな額だと思います。

お金より大事かつ働きだしてからはなかなか取れないと思われがちなのが「時間」です。僕の場合、研修医1年目の時から勉強を始めて医師7年目でUSMLEの勉強を全て終えました。もちろん忙しい期間は勉強を一時休止し、比較的時間のある年度(研修医時代や関連病院に出張中などの比較的暇な時)で集中して勉強する、というような形でやっていました。研修医の時は最も時間があったので(=不真面目であったので)、無理やり仕事を朝のうちに終わらせて朝10時くらいから夜までずっと図書館にこもってUSMLEの問題集をやっていました。その間、他のことは一切勉強しませんでした。

もちろん研修医なので色々な科を回ることになるのですが、特に興味もない上にUSMLEの勉強以外全くしていなかったので「お前は何も知らないのか」とどこに行っても怒られていましたが、とりあえずへらへらしてごまかし、ひたすらUSMLEの勉強だけやっていました。1年目から7年目までの間で、計2年半はUSMLEの勉強のみに使った時間だと思います。大変でしたが、働きながらも勉強していくことはそんなに無理なことではないのかなとも思いました。

働きだすと時間がなくなりそうなので学生のうちから勉強しておいた方がいいですか?という質問をよく医学生から受けます。そもそも学生の時にちっとも勉強していない僕が答えられる質問ではないのですが、そんな時はさりげなく「時間は作るものだからね」となんかかっこよさげにつぶやき、渋い大人の医師像を演出しようと努めています。

このように、USMLE合格には莫大な労力とお金と時間が必要になってきます。次章では各Stepについて触れていきます。


編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2018年10月28日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。