オーストリア、女性党首は社民党を救えるか?

オーストリア野党第1党社会民主党(前身社会党)に130年の党の歴史で初の女性党首パメラ・レンディ=ワーグナー氏(47)が誕生した。オーバーエスターライヒ州ヴェルズで24日開催された社民党(SPO)大会で97・8%の支持を得て、ケルン党首の後継者に選出された。レンディ・ワーグナー新党首は、「党員の支持に感謝する。党員一人ひとりの支持は私にとって燃料だ。私はこれから国民のために走りだす。共に走ってほしい」と述べ、「わが国の初の女性首相を目指す」と宣言し、大拍手を受けた。

▲97・8%の支持で党首に選出されたパメラ・レンディ=ワーグナーさん(2018年11月24日、社民党党大会で、SPO公式サイトから)

隣国ドイツでも半年前、社民党(SPD)にアンドレア・ナーレス党首(48)がこれまた党の初の女性党首となったばかり。ドイツとオーストリア両国の社民党で女性党首の誕生ということになったわけだ。

両国の社民党の共通点は初の女性党首の誕生だけではなく、選挙の度に得票率を失い、低迷状況に苦しんでいることだ。そこでもはや男性に党首は務まらないというわけで、女性を党のトップに担ぎ出したという事情も似ている。「労働者の味方」を標榜してきた社民党で女性党首が果たして党再生の救世主となれるだろうか。

SPDの現状はもはや目を覆うばかりだ。ドイツ連邦議会(下院)選挙を含む選挙と呼ばれる選挙の度に得票率を落としてきた。欧州議会議長を5年務めてきた希望の星、シュルツ氏が党首に選出されたが、SPDの低迷傾向にストップをかけるどころか、さらに悪化させて1年余りで党首の座をナーレス現党首に譲ってしまった経緯がある。

SPD初の女性党首に就任したが、ナーレス党首は党の低迷を止めることはできない。SPDは10月14日のバイエルン州議会選では第5党となり、「ドイツのための選択肢」(AfD)の後塵を拝したばかりだ。連邦議会選後、SPDは下野する予定だったが、結局、メルケル首相の誘いに乗って第4次メルケル政権のジュニア政党の地位に甘んじることになった。

一方、SPDの姉妹政党、隣国オーストリアの社会民主党(SPO)にも同じ傾向が見られる。ファイマン首相(当時)が2016年5月辞任し、実業家のケルン氏が新党首、首相に就任したが、昨年10月15日の総選挙で現クルツ首相が率いる国民党に敗北し、政権を失った。下野したケルン党首は今年9月、突然、政界からの引退を宣言し、レンディ=ワーグナー女史(前政権で保健相歴任)が初の女性SPO党首に選出されたというわけだ。ドイツのSPDとオーストリアのSPOは国こそ違うが、同じプロセスを歩んでいる。

それでは党の初の女性党首は社会民主党を再び生き返らせることができるか。SPDの場合、複数の世論調査を見る限り、現時点ではユートピアに過ぎない。総選挙が実施されたならば、SPDはAfDの後塵を拝するのはほぼ間違いない。だから、ナーレス党首はメルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との大連立政権を破棄できない。現時点で早期選挙に打って出るのは自滅行為以外の何物でもないからだ。

一方、SPOはどうだろうか。誰が党首となっても現時点ではクルツ首相を破り、第1党になることは非現実的だ。ケルン前党首が政界から引退して再び実業界に戻る最大の理由は、「あと8年以上、野党党首としていたくないからだ」といわれる。それほどクルツ首相の国民的人気は高い。スキャンダルや不祥事が起きない限り、再選は確実と予想されている。だから、SPOに女性党首が担ぎ出されたとしても状況に大きな変化は期待できないのだ。

SPDとSPOの女性党首は目下、来年の欧州議会選に焦点を合わせて戦っていく意向だ。ドイツとオーストリアの社会民主党は「労働者の政党」から「中産階級の政党」に脱皮し、再生を目指していくが、前途は決して明るくはない。

地元のSPOに戻る。レンディ=ワーグナー新党首は党大会で党の基本計画を公表し、承認された。その内容は▲労働時間の短縮、▲富の公平な分割と連帯、▲最低賃金1700ユーロ、▲高騰する家賃対策のほか、医者出身らしく▲医療対策の充実を挙げていた。また、国連「移民協定」に参加を拒否したクルツ政権への批判といったところだ。

「公平で平等な社会建設」を主張し、「労働者の天国」を標榜して生まれてきた共産主義社会は夢物語に終わったが、ワイルドな資本主義社会の問題が浮かび上がってきた今日、富の公平な分配と平等な分割など、社会主義的な主張が改めて叫び出されてきている。それだけに、社民党の役割は重要だ。

SPO、SPDの女性指導者の持ち時間は決して多くないだろう。レンディ=ワーグナー党首が、「私は今日から走り出す。共に走ってほしい」と党大会で懸命にアピールしていたのが印象的だった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。