米国保守派の大物が断言「TPPに復帰あり得る」(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

筆者は12月16日(日)に都内で日米中道保守派カンファレンスである「Japan-US Innovation Summit 2018」を開催する機会を持った。日本側からも与野党から国会議員が参加し、米国側からは米国連邦会員議員が祝辞メッセージを寄せるとともに、来日した共和党保守派の大物ロビイストがパネルディスカッションに登壇した。

Japan-US Innovation Summit 2018で講演するノーキスト議長

今回、米国から来日した保守派の大物は、グローバー・ノーキスト全米税制改革協議会議長である。同氏はワシントンの政界で名前を知らない人物がいない超がつくほどの著名人であり、その影響力は味方であるはずの共和党議員らからも恐れられている人物である。彼が仕切る同協議会は共和党の看板政策である減税政策を主導する存在であり、共和党連邦議員のほぼ全員がノーキスト議長の突き付ける「全ての増税に反対する署名」にサインさせられている。トランプ大統領登場以前、野党時代の共和党において最も権力を持つ人物としてリベラルメディアから叩かれてきた過去もある。

2017年保守派幹部会合でポール・ライアン下院議長の隣席で意見交換(YouTubeより

Japan-US Innovation Summit 2018では、減税、人権、貿易、テクノロジー、都市間競争などの幅広い議題について意見交換がなされたが、最も面白かったポイントは「TPP」に関するくだりであったように思われる。

日本側からTPPに対する質問が出た際、ノーキスト議長は「私は自由貿易を支持している」と明確に断言した。そして、「NAFTAの改正についても事実上は大きな変化はなく、TPPについても名称を変えて一部内容を修正することで復帰する可能性もあり得る」と述べた。

前述の通り、ノーキスト議長はトランプ政権を支える共和党保守派の大物であり、その意向や発言は共和党内では一定の影響力を持つ。というよりも、共和党内の中道右派から保守派に属する標準的な支持者たちはノーキスト議長に近い考え方を持っていると言っても良い。

日本のメディアではトランプ大統領への熱狂的な支持者ばかりが強調されて報道される傾向があることから、大統領・連邦議員から自立した意志を持って活動している既存の共和党支持層に触れられることはほとんどない。共和党内の大半は自由貿易支持であり、その手法を巡って問題提起がなされていることが十分に理解されていない。(自由貿易支持でも多国間協定自体に否定的なリバタリアンすら存在している)したがって、いまだにトランプ政権を保護主義とみなす的外れな論調が続いている状況がある。

ノーキスト議長によると、「NAFTAの改正は実質的に対中国の側面があり、米国は中国の知的財産権を巡る問題については依然として強硬な姿勢を取り続けるだろう」ということであった。

しかし、この考え方をもって保護主義ということは大きな間違いであり、自由貿易体制を破壊する制度を作っているのは中国側であることは間違いがない。当面は日米の二国間交渉が継続したとしても、TPPが対中国交渉にとって有益だと判断された場合に一部内容変更を伴う形で米国がTPPに復帰してくることは十分にあり得ることだと認識するべきだ。

米国が主張していた知財に関する改革が一定程度維持された状況になっているため、米国が現状のTPP参加国との関係だけで同協定に復帰するとは想定し難い。しかし、米国側は対中国についてもコントローラブルな二国間協定をメインとしているが、RCEPなどの枠組みに対抗して周辺国の影響力争いが本格化すると、中国を排除するためのRCEP参加国との二国間協定の推進、その延長線上でTPPの活用も視野に入ってくる可能性もゼロではない。

何事も百聞は一見にしかず、というもので、「米国保守派が保護主義者である」という日本メディア及び有識者のレッテル貼りは少なくともJapan-US Innovation Summit2018の会場に来た人からは取り払われたことだろう。今後も米国から共和党保守派関係者を積極的に米国に招いて意見交換する場を積極的に日本国民に提供していきたい。

渡瀬 裕哉
産学社
2018-10-10