法王訪日前に聖職者の性犯罪公表を

長谷川 良

海外から貴賓を迎えるためにはホスト側の迎える準備が重要だ。日本ローマ・カトリック教会はローマ法王フランシスコの訪日を要請し、正式の訪問日程はまだ固まっていないが、来年にはその夢が実現する運びとなったと聞く。日本のカトリック信者数は約44万人(文化庁「宗教年鑑」平成29年版)に過ぎず、新旧両教会の信者数を合わせても人口の1%に満たないが、ローマ法王の訪日は宗教の壁を越えた大きなイベントだ。フランシスコ法王の訪日を早い時期から打診してきた安倍晋三首相にとってもローマ法王の訪日は願ってもないことだろう。

▲日本教会の唯一の枢機卿、前田万葉枢機卿(日本カトリック中央協議会公式サイトから)

ところで、部外者がああだこうだという立場ではないが、日本のローマ・カトリック教会にフランシスコ法王を迎える内外の準備があるだろうか、と少し心配になってくる。もちろん、心配するにはそれなりの理由はある。

当方は先日、日本カトリック中央協議会にメールで質問を出し、その返信が届いた。忙しいところ煩わして申し訳なかったが、返信メールを送ってくださった関係者に感謝している。

当方が日本中央協議会にメールを送ったのは、日本のカトリック教会で過去、聖職者による未成年者への性的虐待件数が何件あったかを知りたかったからだ。そして教会側の対応について学びたかった。なぜならば、ローマ・カトリック教会の最大の課題は聖職者の未成年者への性的虐待問題の対応だからだ。日本のカトリック教会も例外ではない。

日本のカトリック教会は16の教区に分かれ、各教区は独立自治の組織だ。カトリック中央協議会はその教区の上に立つ組織ではなく、教区を超えた日本の教会の「事務的な役割」を担っている。

日本カトリック中央協議会広報担当者の返信は以下の通りだ。

「『未成年者への性虐待』の有無やその対応は各教区内の方針に従い対応することとなっており、カトリック中央協議会はその全容を把握していません」

「各教区の司教からなる日本カトリック司教協議会はアメリカでの事件を重く受け止め対応をしています。2002年6月に『子どもへの性的虐待に関する司教メッセージ』を発表し、翌年『子どもと女性の権利擁護のためのデスク』を設置しました。その目的は、『聖職者による未成年者および女性への性虐待防止』のための体制作りとして啓発しています。現在、各教区にも相談窓口を設置、対応が進んでいます」

当方は本来、聖職者の未成年者への性的虐待件数は中央協議会ではなく、司教協議会に聞くべきだったのかもしれない。ただ、「教区を超えた日本の教会の事務的な役割」を担う中央協議会関係者が聖職者の過去の性犯罪件数を知らない、というのにはちょっと驚いた。これでは「日本カトリック教会のローマ法王を迎える準備は大丈夫か」と、心配せざるを得ないのだ。

バチカンで来年2月21日から24日、「未成年者の保護のための会議」が開催されるが、フランシスコ法王は今月、「バチカンの会議に参加する司教は事前に聖職者の性犯罪の犠牲者に会って、聞くべきだ」(バチカン・ニュース)と強く要請している。すなわち、聖職者の性犯罪の実態を犠牲者を通じて学び、「具体的な再発防止をバチカンの会議で報告してほしい」というわけだ。聖職者の性犯罪問題でフランシスコ法王とその法王を迎える日本カトリック教会関係者の間に問題の受け取り方、深刻度が違うのではないか、と感じてしまうのだ。

フランシスコ法王訪日の際、世界唯一の被爆地の広島、長崎両市を訪問してもらい、世界に向かって「核なき平和」の実現をアピールしてもらえば成功だとは思わないでほしい。厳しい迫害にもかかわらず信仰を守り通した日本のキリシタンの殉教地を訪問し、神への信仰を称えてもらえばホスト側の日本教会にとって万々歳かもしれない。もちろん、それらは意義があり、ぜひ実現してほしいが、それだけではないだろう。

日本カトリック司教協議会はフランシスコ法王の訪日前に、聖職者による未成年者への性的虐待の実態をまとめ、公表すべきだ。1981年2月の故ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶりとなるローマ法王の訪日を絶好の契機とし、日本カトリック教会が再出発するためにも、そのハードルを避けて通れないはずだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。