元旦の日にブラジルの新大統領に就いたジャイル・ボルソナロ。彼の就任式に出席する為、イスラエルのネタニャフ首相は昨年末の12月28日にブラジルに到着。彼と夫人と長男の出迎えには、13台の車、救急車1台、防衛部隊というそうそうたる布陣であった(参照:clarin.com)。
イスラエルの首相がブラジルを訪問するのは、1948年の建国以来初めての出来事であった。それだけネタニャフ首相は、今回のボルソナロの大統領就任に強い関心を示していたのである。しかも、就任式の前日に現地入りするのではなく、その前に3日間の余裕を持っての訪問であった。更に敢えて付け加えておきたいのは、イスラエルは4月の前倒し総選挙を決めてまだ間がなく、国内が選挙キャンペーンで慌ただしい中での訪問でもあった。そうまでして、なぜ、ネタニャフ首相は熱心に今回の訪問を決めたのか。それには次のような理由があったからである。
1.ボルソナロが一旦大統領に就任すれば、双方が時間に余裕を持っての会談が出来なくなる。事前に訪問して、イスラエルに親近感を寄せているボルソナロとじっくり会談を持ちたい、というのが先ず最初の理由であった。
2.ネタニャフ首相はブラジルに向かう前の閣僚会議の席で、「ブラジルはほぼ2億5000万人の巨大な市場だ。この巨大な市場との開設はイスラエルにおいて新しい雇用を生み出し、イスラエル経済に多大の貢献をすることになる」と述べたという。灌漑、農業、養殖業、安全防衛、海水の淡水化、軍事などの分野で、ブラジルはイスラエルから技術や製品の導入などを期待しているからである(参照:milenio.com)。
リオデジャネイロのユダヤ人共同体の会合の席でネタニャフ首相は、「ブラジル大使館をエルサレムに移転させるというのが問題なのではなく、いつ移転させるかというのが問題だ」とボルソナロがネタニャフに語ったことを明らかにした。即ち、在イスラエルブラジル大使館のエルサレムへの移転は内心もう決めているということを、ボルソナロがネタニャフ首相に明らかにしたということなのである(参照:infobae.com)。
米国大使館の場合も、トランプ大統領がエルサレムに移館する意向を表明したのが2017年12月で、実際に移転したのは2018年5月だったということから、ネタニャフ首相はその辺の事情は承知しているという。大使館の移転には十分に時間を与えるということである。
ネタニャフ首相がブラジル訪問を決めたのは、ボルソナロが昨年11月にテルアビブからエルサレムに大使館を移転させることをツイートで表明したすぐあとだとされている。
12月28日の両者の会談で、2019年3月にボルソナロが大統領としてイスラエルを訪問することを明らかにしたということで、恐らくその訪問に合わせて大使館移転の時をそこで正式に発表する可能性が高い。その訪問の際には、ブラジルが関心を持っている業界の各代表も同行させる予定だという。そのためにも「ネタニャフ首相のような同盟者であり、友人であり、また兄弟のような存在が必要だ」とボルソナロは同会談の席で表明したという(参照:aa.com.tr)。
大使館の移転ということについて、実際には事態は容易ではない。ボルソナロが属している政党の中でもすでに移転に反対している議員もいて、しかもブラジル議会は30余りの少数政党が集まって構成されていることから、移転に賛成多数を得るのは容易ではない。
更に、ブラジルの肉類輸出業者はボルソナロに圧力をかけて大使館を移転させないように要望している。アラブ諸国向けの肉類の輸出はブラジルの全輸出量のほぼ2割を占めており、イスラム法で許可されているハラール肉はブラジルが最大の生産国でもある。ボルソナロが大使館をエルサレムに移すような事態になれば、アラブ諸国がそれに反発してブラジルからの肉類の輸入を中止する可能性もある。
3.ネタニャフ首相はボルソナロを通して、ブラジルとの関係強化から足を延ばして南米諸国との友好関係を築きたいとしている。これはイスラエルの敵であるイランが嘗てベネズエラのチャベス前大統領とのコネクションを利用して、ブラジル、アルゼンチンなどにイランの影響力を浸透させていったという実績がある(参照:diariolasamericas.com)。
チャベスが政権を握っていた頃の南米は、ブラジル、アルゼンチン、エクアドル、ボリビアなど左派政権が存在していた。今はブラジルを筆頭に、アルゼンチン、チリ、エクアドル、ペルー、コロンビアなど右派政権に代わっている。それはイスラエルが南米で影響力を浸透させるには好都合な時となっている。