DEES NOT WORDS!~女性議員の意義~

昨年の夏「議会制民主主義・福祉・女性参政権100年を学ぶ」イギリススタディツアーに参加しました。私がもっとも尊敬する女性政治家は英国初の女性首相であったマーガレット・サッチャー。都議会議員になって以来ジェットコースターのような政局に飲まれ、なかなか本格的な海外視察が実現しない中ようやく腰据えて自主研究できる環境が整ったところ、旧知の尊敬する先輩である大河みとこ調布市議に誘われ二つ返事で参加を決めました。

全国各地から超党派の女性地方議員を中心に20名が参加、マンチェスター、ウッドストック、ロンドンを訪ね、サフラジェットと呼ばれた女性たちが一枚の投票用紙を手にするまで命がけで闘った参政権運動で女性をめぐる政治の「歴史」を、現職女性国会議員・地方議員と交流をすることで「今」を学びました。

英国国会議事堂(Houses of Parliament)委員会室にて、“Deeds not words”を掲げるケイト・グリーン労働党国会議員を囲んで。

英国国会も、日本同様見学ができますが、主催の市川房枝記念会の並々ならぬご尽力で観光客立ち入り禁止の委員会室まで入れる幸運に恵まれました。フォークランド紛争決断直前のサッチャーはいまいか?ナチスドイツとの攻防に頭を痛めるチャーチルが葉巻片手に不機嫌そうに登場せぬか?…と錯覚するほど往時のまま。しかし、政治は、ことに女性をとりまく政治は確実に動いてたのです。

丁度今年で私も地方議員となり、ぐるっと干支を一回り、12年の節目となります。07年初当選した頃は、無所属で、民間出身のワーキングマザー議員は珍しかったかもしれません。私自身同じような民間出身議員や女性議員を増やしたい!と超党派異業種交流サロン「プロジェクト日本」を立ち上げ、長じては地域政党自由を守る会を設立し、地盤看板カバンのない若い三人の母親の新人女性議員を地方議会に送り出すことができました。

昨年は女性議員増法も成立し、ずいぶんと女性議員や候補が増えていることはとても喜ばしいことだと思っておりましたが、時代も日本国民の意識も急速に進化を遂げてきてることを、駅頭によく立っている私は気づいてました。もはや女性なだけ、ママ・ワーキングマザーだけでは済まされぬ、その上であなたは「議場で」「地域住民のために」何が出来るのですか?というフェーズに入って来たということに。このタイミングでの英国視察で等身大の女性議員と接し、彼我の差を感じるとともに大きな啓示にも似た示唆を受けました。

現在日本の国政政党は、右も左も支持率アップのために突如として「女性議員を増やす!」と今更ながら息巻いてます。しかしながら、その質は伴っているのか大変危惧するものです。1990年頃「マドンナブーム」が起こり、多くの女性国会議員(所謂マドンナ議員)を輩出しましたが、今でも心に残り、女性達が忘れえぬ尊敬すべき政治家は物理的にも記憶の中にも残っているでしょうか。私からすれば答えはNO!!むしろこの質を伴わないブームこそが、その後の女性議員比率先進国最低レベルの原因になったのかもしれないと思わざるをえません。

ゆえに本年の統一地方選挙と参議院議員選挙において、この愚かなブームの轍を踏みたくないと意を強くしているのです。

では、自分の意思ももたぬ政党の広告塔や労働組合の操り人形になったり、世界情勢や財源の根拠を度外視したイデオロギーを振りかざしたり、議員の身分に甘んじ立場を利用した利益誘導やビジネスに手を染めぬ、地に足のついた女性議員を増やすにはどうしたらよいのか?

そのヒントとして、マンチェスター市議会議員との交流についての視察報告書を公開させていただきます。

女性議員はただ増やせばいいか?

「女性の政治参加」は参政権から始まり、今回視察の縦軸となすテーマです。女性議員増法が成立したものの、議会活動を通じ、政党の広告塔の域を出ない方が散見され「女だから誰でも良いのか?」という思いがムクムクと大きくなっていました。

7月19日当日は、午前中は、サフラジェットの中心人物エメリン・パンクスハートが家族と住んでいたパンクハーストセンターにて女性地位向上の活動をしているボランティアから女性参政権100年の苦闘を伺いました。

センターにて。無数の女性写真モザイクによるエメリン・パンクスハートの肖像

その後、マンチェスター市立中央図書館のカンファレンスルームに向かいました。待ち受けていた、パキスタン移民系ヤスミン・ダー議員、弁護士出身イヴ・ホルト議員の溢れ出るパワーに「女なら何でもいい」という基準で選ばれていない!と一瞬でわかりました。

秀麗な新古典様式建築と充実の蔵書を誇る市立中央図書館(Manchester Central Library)カンファレンスルームにて

まさか自分が議員に?!

左ヤスミン・ダーマンチェスター市議会議員(労働党)

私の選挙区江戸川区は、出生率も都内1位、平均年齢は都内屈指に低く、税収は都内でワースト3に入るくらい低いところです(自主財源38%)。また、外国人が3.4万人も暮らす自治体ですから、見るからにパワフルなヤスミン議員の話に釘付けになりました。生い立ちの背景から社会の不平等に問題意識をもち、早くから女性グループを立ち上げ、活動を続けた結果、労働党及び英国政治に関わってきたとのこと。マタハラで会社を首になった理不尽、保育園待機児童問題解消のため「江戸川ワークマム」を立ち上げ、「政治が変わらないと生活が変わらない」と議員となった上田の経緯と重なります。

「議員になることが目的」「政党女性議員数合わせ要員」ではなく、「自分が議員となるつもりはなかったが、文化や言語の違いよる軋轢を解消すべく奔走。結果、政治は男のもの、つまらない仕事と考えていた自分が、まさか議員になるなんて(笑)」という、自分の使命感の先に議員になったというストーリーに深い共感を抱きました。

私達はスーパーウーマン!Argue(声をあげよう)!

マンチェスター市議会は、半数が女性議員なだけではなく多様な民族・文化を持つ議員も選出されています。東京都議会は、17年改選で躍進をしたとはいえ126人の内女性は未だ36人。ヤスミン議員は「地域で発生しているすべての問題、ホームレス、DV、薬物依存等多くの問題すべてを理解しなければならない。特定の問題だけに取り組むべきではない。」と指摘。女性議員というと、どうしても子育て・福祉・環境に偏りがちであり財源の根拠についてシビアな観点も持つべきではないかと常々考えていたところ、労働党においても合理的にものを考えるのが英国政治家だと膝を打ちました。

今般、ウッド・ストック町議会議員(保守党・労働党)、ケイト・グリーン国会議員(下院・労働党)と多数の女性英議員とリアルに話す機会に恵まれました。日本では国政政党主導で女性議員育成や増員が進められていますが、英国ではすでに自らの実績がありその評価をもって議員になり、個々の価値観や使命感が政治に反映されている。この点が女性政策の根幹であると痛感しました。1点気になったのは、子育て真っ最中の乳幼児を抱えた女性地方議員は少ないということ。この点は日本の地方議会の方が、チャンスがあると感じています。

女性議員を増やしていくにはどうしたらいいか…
ヤスミン議員のこの言葉に尽きます。

「育児に家事をこなしながらも市民のために働く女性議員は、単なるウーマンではなくスーパーウーマン!私達(女性)はあきらめずArgue(声をあげよう)!」

参加者全員スーパーウーマン(笑)。道中大先輩方と、苦労話ややりがいを伺い、時に熱く議論できましたこも血肉となりました。それぞれの持ち場でArgue!

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※(公財)市川房枝記念会女性と政治センター主催2018イギリススタディツアー報告書に寄稿文へ加筆修正したものをセンターの快諾を得て投稿しております。

お姐総括!

英国を訪れた10年前の2008年の夏。
江戸川区議会議員に初当選したものの、旧弊的議会運営に驚愕し「民主主義とは?!」と疑問を抱きオバマ大統領誕生前年の米国ワシントンDCを訪ねておりました。

自由の聖堂「Lincoln Memorial」

日本には政府と利害関係のない良質なシンクタンクがないことを憂慮し、ヘリテージ財団(The Heritage Foundation)でヒアリング

さらにさかのぼって1987年。大学の卒業旅行でもロンドンに。

ウェストミンスター橋から、ビックベンを臨む大学四年のお姐

この時の私は、都議会議員となり、30年後に背後に写る英国国会議事堂の中の委員会室で、日英の政治について活発に英国国会議員の意見交換するとは想像だにしなかったと思います。ヤスミン議員と同じく「まさか、自分が議員に!?」です(笑)。

外面的には、成績も振るわぬ御多分に漏れぬバブル時代の女子大生そのものでしたが、内面では「仕事か子育てか」二者択一はいやだ、でも自分がずっと働き続ける才能があるのか…自分に自信がなく悶々と卒業旅行中もずっと胸に去来していたのでした。この直後就職し、数度転職の後結婚、子どもを授かり、マタハラで会社を首にとなり、波乱万丈な人生から多くのことを座学で学び、いつしか政治の世界に…今のお姐に至ったのであります。

30年後、議事堂委員会室からウェストミンスター橋を臨む。

あの時の私のように、情熱はあるけれど夢を未だ形にできず自信がなく、世間から求められる女性像を持てあましている若い女性、学生は今も沢山いると確信しています。こうした女性たちに、「あなたの人生の主人公はあなただ!」と「自由・自主・自立」の心をエンパワメントしていくことが、女性政治家の務めだと私は思うものです。

サフラジェット※のスローガン
「DEES NOT WORDS」(言葉ではなく行動)!!
さながらに…。

「サフラジェットの闘い:イギリスの女性参政権獲得から100年」ご参考


編集部より:この記事は東京都議会議員、上田令子氏(江戸川区選出)のブログ2019年1月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は上田氏の公式ブログ「お姐が行く!」をご覧ください。