欧州企業は中国との競争に勝てるか

欧州連合(EU)欧州員会の競争政策担当・マルグレーテ・ ベステアー委員は6日、ドイツ総合電機大手シーメンスとフランス鉄道車両大手アルストムが計画していた鉄道事業統合を「独占法禁止法」に反するとして認可しない判断を下した。

▲アルストム社が開発した水素列車(アルストム社の公式サイトから、2019年1月23日)

シーメンスとアルストム両社は「中国国有の中国中車(CRRC)の欧州市場への進出を控え、それに対抗するために事業の統合が不可欠となった」と統合の目的を説明、鉄道車両版のエアバス(ヨーロッパの航空宇宙機器開発製造会社)の創設を表明してきたが、ベステアー委員は同日の記者会見で、「両社は近い将来、中国の鉄道車両大手の進出を恐れる必要はない。両社は高速鉄道分野で世界の市場を占めている」と指摘、欧州の大手2社による鉄道車両分野の統合計画を突き返した。

フランス国鉄(SNCF)のTGVは高速列車で最高時速320km/hを誇り、シーメンスのICE(インタシティーエクスプレス)はドイツ鉄道を代表する高速列車だ。その両社の統合は鉄道車両分野でジャイアンツ企業の誕生を意味する。

一方、CRRCは中国で最大手の国有企業で世界市場に進出し、その車両は既に米国やチェコで走っている。べステアー委員は、「CRRCが将来、世界の市場を独占する可能性は排除できないが、現時点ではその恐れはない。シーメンスとアルストムは高速列車と信号システムで世界の市場を独占しており、中国企業の進出を恐れることはない」と述べ、欧州2社の中国企業進出への恐れという“中国カード”を退け、従来の独占禁止法を適応して2社の統合計画を退けたというわけだ。

同委員の説明では、欧州大手2社の統合は競争相手をなくし、鉄道利用者に高いコストを要求し、利用者へのサービスが低下する恐れが出てくるというわけだ。それに対し、シーメンスの社長兼最高経営責任者(CEO)のジョー・ケーザー 氏は、「ブリュッセルの後ろ向きの官僚主義的判断だ」と批判。アルストムの会長兼CEO、 Henri Poupart-Lafarge氏は、「欧州の産業にとって大きな後退だ」と述べている。

ちなみに、両社の統合が認可されなかったことに対し、ライバル企業のカナダのコングロマリット企業、ボンバルディア社はブルッセルの決定を歓迎している。

今回のブリュッセルの決定は、欧州に進出し、多くの戦略的企業を買い取る中国国営企業に対してどのように対応すべきを考えさせる。ブリュッセルは既成の規則で対応したわけだが、「独占禁止法」を一つとっても基本的には欧州域内を対象としたもので、外国企業を対象とはしていない。

べステア―委員は、「欧州の域内市場で競争できない企業がどうして世界市場の競争に対応できるか」と説明したうえで、「われわれは中国側と協議し、国営企業の補助金問題やフェアな競争、中国市場への公平な条件について話し合うべきだ」と主張する。

ドイツのペーター・アルトマイヤー経済エネルギー相は、「時代の流れに適応したEUの競争法の改正が急務だ」と述べ、「国家産業戦略2030」というプランを提示している。明らかに中国を意識した対策だ。フランスのブリュノ・ル・メール経済・財務相は「市場競争に関する分析で重要な市場は域内市場ではなく、世界市場だ。中国や米国とのグローバルな競争市場の分析だ」と述べている。

オーストリア代表紙プレッセは6日1面で「欧州とその中国ヒステリー」という見出しで欧州側の「対中防衛パニックは正当か」を問いかけ、具体的な中国企業の欧州進出を報じていた。それによると、中国は過去10年間で1000社以上の欧州企業を買収してきた。例えば、有名な企業としてはイタリア・ミラノに本社を置くタイヤ・フィルターのメーカー、ピレリ(Pirelli)は中国化工集団傘下に、スウェ―デンの自動車メーカー、ボルボ(Volvo)は2010年、浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)に18億ドルで売却されている。そのほか、4つの空港、6つの港湾、そして13のプロサッカーチームが中国の支配下にある。

中国の欧州企業購入ラッシュは2016年がピークだった。中国は同年、309社の欧州企業と商談を締結し、総額は858憶ドルだ。昨年は196社、総額312憶ドルと急減したが、米中間の貿易戦争の影響のほか、「中国側が欧州の反発を恐れてブレーキをかけた結果」と受け取られている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。