明暗を分けつつある日産とゴーン氏

ゴーン氏が保釈されてその動きが注目されています。ゴーン氏が司法に対し無罪をどう勝ち取る戦いを展開するか、そして同時並行で進む企業としてのルノー、日産、三菱の連携がどうなるか興味深く様子をうかがっています。昨日、そんな中で一つの方向性が見えてきたように感じます。

3月12日、日産、三菱、ルノー三社は横浜にある日産本社でトップ会談を行い、その後、記者会見に臨みました。そのキーワードは「会議体の共同設立」及び、スナール ルノー会長の「日産の会長になろうと思っていない」の二つです。

まず、会議体とは一般的には三社が同等の権限を持ち、お互いを尊重しあいながら物事を推進していく組織であります。形の上ではスナール会長が議長を務めますが、議長が決定権を持つものではないと理解しています。(あくまで一般論です。)となれば日産と三菱は二票あるわけでルノーとは十分以上に渡り合える関係になります。

では求めるものは何なのか、ですが、私の理解は「緩い連携」だとみています。

企業の合併で最も難しいのが、それぞれの企業が持つテイスト、個性、社風を別の会社と融合させる点であります。そのため、私は合併ではなく連携といった関係が今後、幅を利かせてくるとみています。合併は結婚ですが、連携はパートナー、平たく言えば、恋人関係にとどまるという意味で双方の個性と自由度を維持しながら良いところを取り込むことができます。

ルノーに関してはゴーン氏時代にフランス政府の意図でルノーの傘下に日産をつけ、明白な支配関係を作り出すことを目論んでいました。つまり夫婦関係どころか、時代錯誤も甚だしい主従関係であります。はっきりとは出ていませんが、マクロン大統領が大臣時代から仕組んだプランだとみています。ゴーン氏はそれを遂行するためにルノーの会長をもう一期やることを大株主であるフランス政府から勝ち取った形になっていました。

ゴーン氏はそのバーター取引で更に数年間はルノー会長職という地位を通じて多額の財を得、地位を確立し、展開次第では政界進出という野望があったとみています。ゴーン氏は貪欲、と言われますが、外国の経営者はだいたいこんなもので色の濃淡はあるにせよ、私が北米で28年もビジネスをしているとあきれ返るような話はずいぶんあります。むしろ、日本の経営報酬は淡白で「清貧」ですので落差が激しかったのだと思います。

それゆえ、私は以前からゴーン氏の巨額報酬にはあまり違和感を持たなかったのですが、今回の一連の事件を受けて様々なプラスアルファが出てきたのを見て「それはやりすぎだろう」と思っています。

では保釈されたゴーン氏はどうでしょうか?無罪を勝ち取れるのでしょうか?まず、ゴーン氏が巨額の裁判費用をかけて戦うその理由がどこにあるかです。名誉回復でしょうか?しかし、天地がひっくり返ってもルノー、日産には戻れません。それは法的に裁かれるかどうか、というよりコーポレートガバナンスの中で「社内法」と「株主のコンセンサス」に反したからであります。

よって無敵の弘中弁護士もどこに落としどころを持っていくつもりなのか、そちらに興味があります。個人的には有罪は有罪、ただし、非常に軽い有罪で収まるのだろうと思います。この判決はもちろん、うんと先でないと分かりません。上告すればもっと先です。

しかし、日産にとっては、というより西川社長にとってみればゴーン氏を追い出し、組織を刷新し、ルノーとの関係を新たに築きなおすことを望んでいるのでしょう。その点では日産からすればゴーン氏の判決の重さは有罪である限りにおいて「司法の判断ですから」とコメントするはずです。これもうんと先なので西川氏が社長でいるかどうかもわかりませんが。

企業裁判はある程度落としどころが分かることが多いものです。それは裁判官、検察側、被告弁護士の事前のバトルである程度方向性が絞り込めるからです。今回の場合、特捜部の責任者がそのまま裁判の担当に異動していますので弘中弁護士チームと熾烈な戦いが想定され、どちらかが一方的に押し切られるというケースは考えにくいのです。

裁判は個別案件ごとの判断が入りやすく、それゆえに最近は法律の文言で縛る制定法主義ではなく、判例法主義が主流になってきています。ゴーン氏は名誉回復まではいかなくても妥協できる有罪で収まる、いや、弘中弁護士が「収める」のだろうと思います。

よってゴーン氏が取締役会に出席できないとか、株主総会に出席を検討しているといった話題ももうそろそろ熱が冷めるとみており、裁判マターとして弁護士に任せてゴーン氏は自分の将来をプランする時期にあると思います。随分お金をかけた新しいワイフの面倒をもう少し見ないとそちらでも面倒なことが起きかねないとよろしいかと思っております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月13日の記事より転載させていただきました。